Brick-and-Clickの逆襲 -生き残りをかけたマルチチャネル戦略
アメリカのインターネットバブルがはじけ、ドットコムが次々につぶれていることは著書『黒字ドットコム』の中でお話したが、2000年も終盤となり、その加速度が増している。11月にはIdealabが出資していたPets.com(ペット用品販売)や、Garden.com(園芸用品販売)、MotherNature.com(ビタミン類販売)、Furniture.com(家具販売)、Streamline.com(食料品宅配)などかなりの有名サイトが店を閉じた。唯一残っていたBeautyJungle.comが店を閉じ、非化粧品メーカーによる主な化粧品販売サイトは全滅した。12月に入ってSpinway(無料ISP)、
Riffrage.com(音楽デジタル配信)、HotOffice(コラボレーションツールASP)も店じまいをしたが、特に音楽・エンタテーメント関連サイト、ISP、ASPの閉鎖やレイオフが目立つ。
Priceline.comでは食料品指値販売部門、WebHouse Clubを閉鎖したが、要である航空券販売の売上も低下している。eToysも生き残りをかけていたこのホリデーシーズンの売上が予想ほど伸びず、買い手を探し始めた。このままでは5月に資金がつきる。Buy.comではユナイテッド航空と共同で構築した旅行部門、およびオーストラリアの合弁を閉鎖。B2Bも安泰ではない。複数の業界マーケットプレースを構築するVentroでは、ChemdexとPromedixを閉じ、B2Bマーケットプレース向け技術提供に専念することを発表した。本当に、ほとんどのドットコムが1、2年以内に消えてしまうのではないかという感じがしてきた。
こうしたドットコムの不調にもかかわらず、2000年のホリデーシーズンのEC売上は61億〜116億ドルに達し、昨年比66〜100%増と予測されている。これは、既存小売業者の健闘によるところが大きい。これまでオンラインでの売上はオンライン業者と既存業者との間の差はあまりなかったが、11月のオンライン売上は既存業者がオンライン業者を29%上回ったという結果が出ている。
2000年に入り、トラフィック調査会社のオンライン小売業者トップ20(推定購買者数ベース)にJCPenny.com、Sears.com、Staples.com、Spiegel.com、Victoriassecret.comなどの既存小売業者が常にランクインするようになった。ランズエンドやビクトリアズシークレット、またTVショッピング会社QVCのオンライン部門iQVCではすでにオンラインで利益を出しているが、ある調査でもマルチチャネル小売業者(店舗やカタログベースでオンライン販売も行う業者)の方が利益を出している割合が高いという結果が出ている。またダイクレトマーケティング協会(DMA)の調査でも、会員の69%がすでにオンラインで利益を出しているという。
カタログ販売を行っているマルチチャネル業者では、すでに配送センターやコールセンターを持ち、フルフィルメントや顧客サービスの態勢が整っていたという点が強いが、それ以外にインターネットを事業展開のためのプラットフォームではなく、販売チャネルのひとつとして位置付け、他の販売チャネルにシームレス
に統合しているという点が大きいといえる。
『黒字ドットコム』で紹介したMature Mart、Real Goods、Daddy's Junky Music、Mo
Hotta Mo Bettaなどの中小企業でも、インターネット以外にカタログや店舗販売などのマルチチャネル販売に成功している。こうした企業では、オンライン進出によって、既存の顧客層を食うのではなく、新たな顧客、特にオフラインとは異なる顧客層を獲得しているところが多い。Mo
Hotta Mo Bettaではオンライン顧客の75%が新規顧客であり、Real Goodsのオンライン売上の半分が新規顧客によるものである。
オンライン小売業者でも、インターネット上だけでの展開には限界を感じ始めており、今やオフライン進出が生き残りの鍵となっている。おもちゃのオンライン販売のためにAmazon.comがトイザらスと提携して話題を呼んだが、他にも店舗を持つ既存業者と組んだり、自ら店舗を開設したりするオンライン業者が増えている。E*Tradeでは既存のATM網を買収しただけでなく、店舗の開設に乗り出している。Bluemercury(パーソナルケア販売)では3店舗開設、iPartyでは30店舗を持つパーティ用品販売会社を買収。倒産したGazoontite.com(対アレルギー製品販売)では、オンラインでの販売をやめ、店舗での販売のみを続けている。
Cyberian Outpost(コンピューター・エレクトロニクス製品販売)では、次々に既存の小売業者と提携し、小売業者の商品をオンラインで販売すると同時に、提携先の店舗にキオスクを設置し自社製品の販売に努めている。Expedia(旅行予約)では主要空港のカフェにインターネットアクセスを提供する予定だ。
Cooking.com、800.com、eZiba.com、Lucy.comなど、ホリデーシーズンに向けカタログ配布を開始したオンライン小売業者も多い。
顧客に多様な選択肢を与えることが、購入を容易にし、顧客サービス、ひいては顧客の囲い込みにつながる。インターネットが登場した頃、オンラインストアがオフライン店舗に置き換わるようなことがいわれたが、すべてがオンライン化すれば顧客は満足するというわけではない。実際に商品を手にとってみたいという消費者は多いし、カタログで見てオンラインで注文、オンラインで見てフリーダイヤルで注文をするという消費者も多い。オンラインで購入した商品を最寄りの店舗で返品できれば、さらに便利である。顧客のその時々のニーズに合わせ、オンライン、電話、ファックス、店頭で購入、サービスが利用できるようにするということが鍵なのだ。(GlobalLINKERでも毎年のように繰り返しているが)、インターネットはチャネルの一つに過ぎないのである。
今後は、既存業者、オンライン業者ともに、マルチチャネル販売での戦いとなりそうだ。
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