GlobalLINKERTM
Volume 2 Number 1 Winter 1995/1996
If You Want to Kill a Message, Translate It.
メッセージを台無しにするには、訳すのが一番
会社カタログや宣伝パンフレットを英訳してほしいと言われるクライアントがよくいる。たいていの場合、「訳すのではなく、英語のコピーは一から書き直した方がいいですし、デザインも変えた方がいいですよ」と申し上げることにしている。
日本語のカタログをそのまま英語に訳したものをよく見かけるが(通じない英語が使われているものも中にはある)それを見た欧米人の反応は、たいてい「いったい何をしている会社かわからない」というものだ。日本の会社カタログには、経営者の哲学や精神を強調したものが多いが、カタログ中、哲学だらけでは、具体的な事業内容は伝わらない。
欧米のカタログでは、会社の使命(ミッション・ステートメント)が冒頭に登場した後は、自社のユニーク性や具体的な事業内容に入るのが一般的である。
また、日本語の文章をそのまま訳したのでは、英語になった場合に抽象的すぎて意図が伝わらないことが多い。こうした違いは、経営方式の違い、論理の組み立ての違い、説得方法の違いに基づいている。
テレビコマーシャルを例にとってみてもいい。アメリカのTVコマーシャルを見たことがある人なら知っているだろうが、その製品がいかに優れているかを、しつこいくらいに説明したものが多い.視聴者に自社の製品の優位性を論理的に訴えようとするものだ。一方、日本のコマーシャルは、情感に訴えるものが多く、たとえば眺めのいい風景ばかりが映し出され、いったい何のコマーシャルだろうと首をひねっていると、最後にやっと会社名が出るというものが少なくない。
「市場のニーズに合わせて商品やサービスを位置づける」というのが、マーケティングの基礎である。日本語のカタログやパンフレットは、もともと日本の文化を反映し、日本市場のニーズに合わせて作られている。それを価値観や習慣の違う国で、単に言葉だけを置き換えて、そのまま使おうというのには無理があるだろう。
ポイントはまず「ターゲット市場(対象者)は誰なのか」「そのターゲット市場にはどのような特性があり、何を欲しているのか」を見極め、「彼らのニーズが、自社の製品またはサービスによっていかに満たされるか」を、ターゲット市場の言語で書くことだ。その際、日本語の論理に基づいて書かれたコピーのことは忘れた方がいい。販売製品やサービスに関し、日本とは違った点を強調しなければならない場合もある。
コピーだけでなく、デザインやレイアウトも、ターゲット市場のニーズに合わせて変えた方がいい場合も少なくない。
外国語のカタログやパンフレットに何十万、何百万円と費やす前に、もう一度マーケティングの基礎にもどってみてはどうだろうか。
国際ビジネスシーン -- 通用しない日本流
21世紀に向け、経済や社会の急速なグローバル化が進んでいる。同時に、国際的なビジネスシーンでは、文化や商習慣の違いからさまざまな困難や問題も生じている。日本式ビジネスのやり方が通用せず、現地の人や社会と摩擦を起こすこともまれではない。アメリカでは、日本企業がアメリカの法律・文化・商習慣を理解していないために、独占禁止法やダンピング防止法の違反、さらに人種差別やセクハラなどで訴えられるケースが後を絶たない。ここでは、日本企業が海外で商売をするにあたり、陥りがちな点を挙げてみよう。
1)弁護士と契約書の役割
日本では、普通、商売をするのに弁護士が必要ということはないだろう。しかし、アメリカを始め、弁護士なしでは商売ができない国は世界に少なくないのである。たとえば、アメリカでは、事業開始・会社設立の際に、会計士と並んで、弁護士がほとんど不可欠な存在である。
そうした国で日本企業が日本と同じ感覚でビジネスを行なうと、思いもかけない事態になりかねない。契約内容を弁護士に相談もせずに、アメリカ企業と提携契約を結ぶ日本企業すらある。アメリカ企業と新製品の共同開発をするのに、たった一枚の簡単な契約書ですませている企業が、かなり大手でも存在する。その結果、相手企業にとって有利な契約書や必要な項目がまったく含まれていない契約書に平気でサインをする。
欧米企業にとって、契約書は「終わり」であるが、日本企業にとっては「始まり」であるとよく言われる。欧米企業にとっては、多くの交渉を重ねた後、合意にこぎつけた証しが契約書なのである。一方、日本企業は、細かいことは、契約書を交わした後に、随時、相談して解決していけばいいと考える傾向がある。とにかく“誠意”さえ持っていれば、わかってもらえると思っている日本人が多いが、それ自体が日本的な考え方であり、彼らが言うところの“誠意”を相手も持っていると決めつけるのは、大きなまちがいである。
もちろん、一番重要なのは、相手企業とどういった信頼関係が築けているかであって、たとえどんなに立派な契約書があっても、両社の間がうまくいっていなければ商売はうまくいかないし、両社の関係さえうまくいっていれば契約書など必要ないだろう。しかし、何か問題があったときに契約書が助けとなるかもしれないのだ。
アメリカでは、雇用差別で訴えられる日本企業が後を絶たないが、従業員とちゃんとした雇用契約書を交わしていないというのが原因のひとつである。たとえ雇用契約書を交わしていても、細かい規定がなく、非常にあいまいなものであったりする。たとえば解雇に関する項目がなければ、不当解雇と訴えられたときに「正当な解雇であった」と証明できる証拠がないのだ。
アメリカの雇用契約書には、単に雇用期間や給料・福利厚生などの条件だけでなく、「退職の際には、書類,ファイルノート、レポート、コンピュータプログラム、顧客リスト・・・
(具体例が永遠と続く)を含むすべてのデータ、記録、情報、知識を雇用主に返却する義務がある」などという項目まであり、退職の際の条件、また「退職後に競争業種に就かないこと」という退職後の規定までが、何項も続くのである。(たとえば、当社では、クライアントの企業秘密を取り扱う場合が多いため、たとえアルバイトでも、必ず「本プロジェクト中に知り得た一切のデータ、情報・・・は、第三者に公表しない」という項目の入った雇用契約書にサインをさせることにしている。また期限までに仕事を仕上げない業者に対しては罰金項目も設けられている。)
「弁護士費用というのは、保険料と考えるべきだ。何かあったときのための備え」といったアメリカ人の弁護士がいるが、契約書も同じこと。数万円、数十万円をおしんだために、問題があったときに、相手に訴えられ、結局、高額の和解金や賠償金を支払うはめになったということがないようにしたい。
2)交渉・説得方法の違い
日本では、相手の情感に訴えることによって、相手を説得しようという方法がよく使われる。しかし、「直線的思考」と言われる欧米人には、この説得方法は通用しない。彼らにとって、理性によって支配されるべき交渉・説得のプロセスに、感情は無関係のものなのだ。彼らを説得するには、論理的に説明し、理性に訴えかけなければならない。
日本市場から製品を一部撤退させようとしているアメリカ企業の話である。日本支社の営業担当者は、「当社の客は、我々を信頼し、20年も取引を続けてくれた。20年ものビジネス関係をそんなに簡単に切るわけにはいかない。我々は、お客の信頼を得るために多大な努力をしてきた。そんなに簡単に長年の客を切られては、我々の努力が報われない」と日本市場からの撤退反対をアメリカ本社に訴える。しかし、彼の説法では、アメリカ人を説得できない。いくら20年取引しようが、信頼を裏切ろうが、儲からなければ商売を続ける意義はまったくない。大事なのは、ボトムライン(最終利益、決済書の最後の行の意)なのだ。(それも短期間で利益があがらなければならない。今の客をキープすることが、10年20年後のボトムラインに利益をもたらしても,今の経営者には何のメリットもないのだ。)
また、アメリカ人に「我々はこれだけ努力したのに・・・」と言っても徒労に終わる。「直線的思考」に“情け”がつけいる余地はない。たとえば、上司に昇給を交渉するときには、「これだけ努力しました」ではなく、「これだけ成果をあげました」でなければならないのだ。
上記の営業担当者は、アメリカ本社を説得するには、こうした長年の客を失うことがどれだけの損失になり、(特に短気的に)失った客を再度獲得するのに、どれだけのコストがかかるか、維持すれば近い将来どれだけの利益につながるかを具体的な数値をあげて説明するべきだろう。「信用・信頼」「誠実」「努力」だけでは、「直線的思考」者を説得することはできないのである。
これからどうなる? ネットワーク社会!
インターネットのユーザーは、世界で7000万人に達したと言われている。しかしこの数字も、全世界に存在するパソコンの台数に比べれば微々たるもの。インターネットの社会的利用は、今まさに始まったばかりだといえるだろう。
インターネットや社内ネットワークの普及は、いったいどんな社会的変化をもたらすのだろう。
■グローバルなビジネス展開■
世界中のテレビ局に宣伝広告を出すには莫大な資金がかかるが、インターネットのwwwを使えば、労せずして世界中のインターネット・ユーザーに向けて宣伝広告を発信することができる。しかも、音声・動画・文書のマルチメディア広告も可能である。個人でも世界を相手に商売ができる時代の到来である。
■24時間体制の労働環境■
たとえば、ソフトウェア開発部隊を日本、アメリカ、ヨーロッパに配置しておけば、ヨーロッパで開発が開始されたプログラムを、夕方インターネットでアメリカに送信。アメリカは朝なので、すぐに開発を継続。アメリカが夕方になると、日本が朝のため引き続き開発を受け継ぎ、一周りしてヨーロッパに帰る頃にはヨーロッパが朝。つまり24時間体制で開発の仕事が進められることになる。こうした体制の会社と、日本国内のみで開発している会社と比べてどちらが有利か言うまでもない。
■ネットワーク上に構築されたバーチャル・カンパニーの登場■
今見たように、インターネットを使えば、ひとつの仕事を仕上げるのに、スタッフが同じ時間に同じ場所に集まらなくてもよくなる。
たとえば、経理の圭子さんは九州博多の自宅で会社の経理を行ない、営業担当の健太さんは、東京で新規のクライアント開拓に奔走。広告担当の良介さんはマレーシアでwwwサーバーに広告を組み込み、日本語と英語で情報発信する。ソフト開発はインドのシンさんとアメリカのトレーシーさん、購買及び商品発送はシンガポールのタンさんといった具合に場所や時間を選ばないで仕事の進められるバーチャル・カンパニーが出現する。そうなると、本社は税金とネットワーク使用料の安い国へと移って行く。インターネットの直接接続費用が、年間アメリカの40倍もかかる日本からは、企業が流出してしまう可能性は充分にある。
■サラリーマン社会に与える影響■
ネットワークを使って仕事ができるということは、毎日出社する必要がなくなるということだ。昨年、IBMでは、セールス担当者の多くを在宅勤務にし、今まで使っていた貸しビルのオフィスを閉鎖してしまった。セールスマンは、月に何度か会議のためにオフィスに集まるだけでよいのだ。以前、日本で話題になった「リゾート・オフィス」も夢ではなさそうだ。もっとも、ネットワーク社会が、必ずしも万人に利益をもたらすわけではなく、中には仕事から溢れる人も出てくるだろう。
社内ネットワークが整備されれば、平社員が部長や社長に直接電子メールを送れるようになる。つまり、中間管理職を飛び越え、直訴が簡単にできるようになるのだ。実務担当者とトップマネージメントとの直接のやり取りで仕事が進むようになれば、中間管理職は有名無実となり、リストラの対象となり得る。要するに、係長クラスの実務担当者から中間管理職の仕事を取ってしまうかもしれないということだ。結果的に、組織は徐々にフラット化し、プロジェクトごとに仕事を進めていく形態が増えるだろう。
■今後の展望■
インターネットが普及して、社会がネットワーク化していく過程で、さまざまな業種が淘汰され、同時に新しいビジネスチャンスが生まれていく。こうした社会やビジネス形態の変遷に合わせて、迅速に軌道修正ができるかどうかが、これからのビジネスの成功への鍵となることは間違いない。
(GlobalLINKTM ハイテク担当 高橋正一)
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