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Volume 3 Number 1                       Winter 1996/1997

危機管理としてのPR


  PRというのはPublic Relationsの略で、日本語でいうと広報活動の意。日本語でPRというと宣伝・売り込みの感が強い。と言って、広報活動というと、どうしても社内報の発行や政府の広報活動のようなイメージがある。PRというのは、企業や団体が、製品の売上を促したり、よい企業イメージを築くために、その製品や方針、活動などを広く社会に知らせるものである。これは、新製品や社長交代に関するプレスリリースをマスコミに流すといった類のものだけではなく、パブリックスピーチ、セミナーやコンテストなどのイベント、フィランソロピーに代表される社会貢献事業など、企業のイメージアップをはかるための日々の活動が含まれる。

アメリカでは、企業のPRを専門とした会社が多数存在し、PRは一大産業をなしている。日本では、大手広告代理店がPRも扱うからか、広告とPRの区別があいまいである。広告というのは、テレビや雑誌などのスペースを購入して、企業側が流したいメッセージを公共に伝えるもの。メッセージの内容は企業側がコントロールできる。PRというのは、企業の情報を無料でマスコミに提供するのだが、公共に伝わる情報は企業側ではコントロールできない。しかし、第三者によって伝えられる分、信頼性が高い。また、広告よりコストを低く抑えられるという利点がある。

PRの概念がはっきりしていないからか、日本企業は、概してPRが下手である。今年4月に起こった三菱自動車セクハラ事件は、三菱側のずさんな人事管理だけでなく、PR機能の欠如、危機管理の甘さをも暴露した。  雇用機会均等委員会が米国三菱自動車製造を提訴直後、従業員らのデモ、米国三菱側による容疑否定などが続き、「三菱側は強行な対応措置を示している」とマスコミ報道される。同時に、日本の本社は「友好的な方法でできるだけ早く解決したい」という相反するメッセージをマスコミに伝える。その後、議員や女性団体などが激しく三菱を批判。同事件は、「米国史上最大のセクハラ訴訟」としてアメリカ各紙のフロントページを飾る。米国三菱が、問題を是正し、新しい人事方針を打ち出すため、元米国労働省長官のリン・マーティン氏を採用したのは、提訴から1ヶ月後。マスコミ対応のためにPR会社2社を雇ったのは、それからさらに9日後のことである。

こうした危機が起こった場合、対応は一刻を争う。一週間も経てば、世論は固まってしまうのである。三菱自動車の96年10月までの売上は、前年比7.2%の下落。三菱自動車だけでなく、電気製品から銀行まで、「三菱」というブランドが危機に扮した。 もちろん、PRが下手なのは、日本企業だけではない。つい最近起こったテキサコ社人種差別事件では、テキサコのPR無能ぶりを披露し、不買運動は全米に広がり、同社の株価は下落。結局、1.76億ドルの賠償金を支払う結果となった。しかし、特に日本企業の場合、海外で「性差別的」「人種差別的」というイメージをもたれている。そのようなイメージをもたれており、マスコミに「やはり日本企業は...」と報道されるであろうことを踏まえた上で、経営戦略の一環として、日頃からイメージ改善のためのPR活動や危機管理の整備に力を入れるべきであろう。


クライシス・コミュニケーション--対応の仕方で決まる企業の評判



  過去のクライシス・コミュニケーションの例を振り返ってみると、意外な事実がわかる。危機に陥った企業のイメージを決定づけるのは、危機そのものよりもむしろその企業の対応の仕方であるということだ。 そのよい例は、エクソンのオイル漏出事件だろう。会社の対応が悪く、5万人の顧客がエクソンのクレジットカードを切り刻んで送り返した。
ジョンソン&ジョンソンの場合、その優れた対処により、タイレノール事件*の後、会社の評判が上昇した。

危機コミュニケーションを専門とるす大手PR会社の幹部は言う。「本性というのは危機に扮したときに現れると見なされ、企業の性格は、そのときの振る舞いで判断されるのです」 もちろん、消費者は完璧な製品を求めるだろうが、基本的には、そうではない場合もあり、人間は誰しも間違いを犯すということを理解している。だから、企業が問題をうまく処理すれば、間違いは許してもらえる。

許してもらえないのは、企業が問題を隠そうとしたり、責任を否定したり、大事なのはまるで損得勘定だけかのように振る舞うときだ。ということは、企業が危機に扮したとき、それが第三者によって起こされたものであろうが、自分たちのミスや不正行為で起こったものであろうが、それに面と向かって、責任を認め、問題を正すことを約束し、再び同じ間違いが起きないよう対策を講じる方が賢明だということだ。
私は新聞社で編集者をしていた頃、これを証明する例に出会った。

サンディエゴの小児病院では、医者にも認知できない不思議なウイルスによって2人の子供が亡くなった。問題が発覚して数時間以内に、医師らは記者会見を開き、当惑したコミュニティに事態を説明した。医師らは、何を把握していて、何を把握しておらず、現在、どういった処置をしているかを正直に語った。大学や医療研究機関から専門家を招集し、全力で死亡原因の解明にあたっているということだった。そのときから危機の解決までずっと、病院の医師と管理者らは、日に2回記者会見を行ない、事実をごまかしたり、責任回避をすることは決してなかった。
危機が解決する前に、3人目の子供が亡くなるという悪夢にもかかわらず、病院が、マスコミ、犠牲者の家族、保険当局、コミュニティによって責められることは一度もなかった。

危機が起こった際には、もちろん、賠償の可能性や売上への影響、株式公開企業の場合、SEC(米国証券取引委員会)ディスクロージャー規則や株価への影響など様々な事項を考慮しなければならない。 しかし、結局は、消費者、投資家、マスコミが、危機が生じた後に示される性格や能力をもとに、その組織を信用するか否かを決めるのである。

(クライシスコミュニケーション・スペシャリスト  Bill Furlow) *タイレノール事件 82年、シカゴで起きたタイレノール粉末カプセル青酸カリ混入事件。5人が死亡。全米の新聞記事の数は8万、ラジオ・テレビ報道は数百時間、同社へのマスコミからの電話問い合わせは2000件という大事件となった。しかし、メーカーのジョンソン&ジョンソンは、消費者からの質問に答えるためのホットライン設置、完全包装をした新製品との無料交換、幹部らによるマスコミインタビューやトクショーへの出演、160省庁の訪問、全社員およぼOBへの文書およびビデオによる現状報告、同事件に関する全手紙への回答送付など、総括的なコミュニケーションプログラムを展開。その迅速かつ誠意のある対応を高く評価され、事件後、逆に社会的信用を高めた。

危機管理プラン
危機管理チームの構成
全情報の開示を管理する「門番役」の選任
メディア対応者の選任と教育
その企業を襲う可能性の高い危機の種類の把握
鍵となる情報伝達対象者と情報伝達者の確認
危機管理チームとマスコミのためのロジスティックス(後方業務)プラン


重要なイメージ戦略


 アメリカには、芸能人、政治家、会社重役などを対象に、効果的なパブリック・スピーキングの仕方や、テレビなどのメディアへの戦略的な対応方法などを指導するコミュニケーション・コンサルティングやメディア・トレーニングといった商売がある。

そうしたコンサルタントの一人、フラン・ゾーン氏は、ローマ法王がロサンゼルスを訪れたとき、その高官にメディア対処法を指導したこともある、 ゾーン氏は、企業のメディアへの対応の仕方で、その企業の将来がわかるという。「その会社がどれくらい意識が高いか、ビジョンを持っているか、スポークスパーソンが自分の発言のインパクトを理解しているか等、その企業の文化が映し出される」 「ある企業では、幹部がメディアで話をするたびに、株価が落ちていた。 彼はコミュニケーションの仕方を知らなかったんですね。彼が口を開くたびに、市場を不安にさせていたんですよ。コミュニケーション能力というのは、自社の株価にも影響を与えるくらい重要なのです」
ゾーン氏は、広報のことを‘メディア・マーケティング’と呼ぶ。

広報部というのは、どの会社でも軽視されがちだが、これから広報を活用できない企業は伸びないと断言する。「広告というのは、もはや最高の宣伝手段ではなくなった。広報の方がコストがかからない上に、30秒のTVコマーシャルよりも影響が長続きする。広告と広報がバラバラに動いていては、どちらも目的を完全に達成できない。広告というのは‘買う’ものだが、広報というのは‘影響を与える’もの。広告が買えないものは、広報で影響を及ぼすというように二つを戦略的に合わせれば相乗効果が得られる」 ゾーン氏は、95年に大企業をスポンサーとして集め、大々的なセクハラ防止キャンペーンを展開した。

「私は‘セクハラは止めるべきだ’といって企業を回ったわけではない。‘当社は働きやすい生産的な職場を提供しています’というイメージを築きませんかと持ちかけた」 最初にスポンサーに名乗り出たのは、化粧品会社だったが、「同社の顧客のほとんどが女性であり、セクハラを許さない企業というイメージが、会社にとってどれだけ有益かを理解していたのです」 アメリカでは、ここ数年、「当社は責任ある地域社会の一員です」というメッセージを地域社会に伝えることが経営戦略において非常に重要になっている。日本企業も、これからのグローバル市場では積極的にイメージ戦略を取り入れていく必要があるだろう。


インターネット・マーケティング


 オンライン広告 WWW上の広告額は、96年9ヶ月間だけで1.57億ドルに達した。WWW上で利益を上げている企業は、まだまだ少なく、多くの企業が広告収入に頼っているのが現状である。 多くの消費者向けサイトに登場する広告で、もっとも一般的なのはバナーやメダル形式のものだが、こうした広告が、実際にユーザーによってクリックされる割合は、1%以下とも言われている。

このため、最近は、コンテント自体をスポンサーする広告形態が増加している。たとえば、 X世代(18−34才で、インターネット人口の4割を占める)Tripod (www.tripod.com)では、スポンサー企業からの広告収入だけで運営しており、履歴書の書き方、職探しからライフスタイルまで、様々なアドバイスを無料で提供するバーチャル・コミュニティを形成。会員数は9万人に達している。 アクション・スポーツに関する情報を提供するCharges (www.charged.com)のように、ビジターが資料を読もうとハイパーリンクをクリックすると、スポンサー企業の広告が現れるサイトも登場している。従来、バナーなどのWWW上の広告は、TVコマーシャルなどと違ってコンテントを中断して、消費者に強制的に見せるものではなかった。

しかし、こうした“強制広告”に対しては、「ネチケットに反するもの」「ビジター数を減らすもの」という意見も多い。アメリカでは10人に1人がWWW上の広告に反対している。 さらに、広告をクリックすると、広告主のサイトに飛んでしまうという欠点を補うために、www.charged.com上のリーバイスの広告のように、15秒後には元のサイトに自動的に戻るという広告も現われ始めた。

 WWW上での広告額は、2000年には50億ドルに達すると予測されている。広告料だけで利益を出しているサイトはまだ少ないが、従来のメディアに比べ、WWWでは、非常に対象を絞ったマーケティングが可能であるため、今後の伸びが期待されている。 ホームページ成功の鍵 事業として成功しているホームページは、対象市場を絞り(X世代、ゴルフファン、"お宅"など)、それに合わせた的確なマーケティングを行なっている。また、対象市場を絞った方が、広告スポンサーも得やすい。 ホームページ運営の成功の鍵のひとつは、リピート客の獲得である。

そのために、抽選やクイズによる賞品授与、コンテスト、オークションなどのインセンティブ提供、チャット、ニュースレター、ディスカッション・グループ、コメント欄などを用いたバーチャル・コミュニティの形成などの工夫がなされている。また、こうしたプログラムは、ビジターの登録を要するため、データベースの構築にも役立つ。  バーチャル・ブックストアとして成功しているAmazon.com (www.amazon. com)では、ユーザーの書評を掲載し、書評コンテストや推薦書コンテストを行なっている。さらに、作家の電子インタビュー記事を掲載したり、個人の好みに合った新刊書の入荷を知らせる自動電子メール送信サービスも提供している。同サイトでは、近日中に、作家や他の読者と意見を交換できるフォーラムやチャット機能を開始する予定だ。


話題のサイト


  • オークション Onsale (www.onsale.com) 業者の在庫処分品をオンラインで競売にかけ販売。
  • 料理 Starchefs (www.starchefs.com) 世界の一流シェフらの調理法を紹介。サーチエンジンを用い、使用したい材料で調理法が検索できる。
  • カード American Greetings (www.americangreetings.com) オンラインでユーザーが購入したカードを直接送付先に届ける。
  • スーパーマーケット Peapod (www.peapod.com)   生鮮食料品まで購入できるバーチャル・スーパー。
  • 最低価格検索 Price Watch (www.pricewatch.com) コンピューター関連製品の最低価格を表示。
  • ネットガイド Canadas.Net Webtimes (www.canadas.net/WebTimes)  Infoseek Webtimes (http://guide.infoseek.com/webtimes) インターネット上で開かれる100以上のライブイベントを毎日掲載。
  • ゴルフ GolfWeb (www.golfweb.com) ゴルフに関する情報ならすべて掲載。ページ数35、000、19000のゴルフコースに関するレポートもあり。
  • テニス Tennis Server (www.tennisserver.com) テニスに関する情報が満載。テニス用品メーカーがスポンサー
  • カスタムメードのコミュニティ Firefly (www.firefly.net)   ユーザーが提携サイトを訪れると、その個人のプロフィールをダウンロードし、さらに訪れたサイトでの行動に基づき、プロフィールをアップデートする。これまでのサイトでの行動に基づいた好み、関心事、傾向などをもとに、提携ウエブサイトを訪れると、その個人のプロフィールにあったカスタムメードのプレゼンテーションがなされる。また、好みなどが似た他のメンバーのハンドル名も提供。メンバーのためのホームページコーナーやメールボックス、好みに応じたフォーラムやチャットルームもあり、気の合った仲間と交流ができる。友人がログオンしたり、好みの音楽や映画に関し、誰かがメッセージをポストすると、個人に連絡が来るシステムになっている。会員数25万人以上。現在、提携先には、ローリング・ストーン誌、ロイター通信、Ziff-Davis Network(ソフト販売)などがあるが、今後、旅行、金融、書籍、レストラン業者との提携を予定している。

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    Revised 1/23/97