<アメリカ西海岸便り>

人間と話をするのは有料?米国カスタマーサービス事情


 数ヶ月前に、あるコンピューター関連品を買ったときのことだ。設置がうまくいかない。 不良品のようだったので、メーカーのカスタマーサービスに電話をすると、すべて自動応答システムで、人間と話をするには1時間14.95ドルで有料であるという。マニュアルに記載されていたファックス番号と電子メールアドレスも試したが、ともに、自動応答システムになっており、こちらの事情を説明する手段がない。

 仕方なく、有料のテクニカルサービスに電話をし、「不良品かどうかを確かめたいんだが」と言うと、「クレジットカードの番号をもらわないと話はできない」と言う。「不良品かもしれないのに、 なぜ料金を支払わなければならないのか」と抗議すると、「不良品だとわかれば返金する」と言う。そこで、渋々、クレジットカード番号を渡した。結局、先方は、私の使っている基本ソフトに問題があると決め付けた。(ユーザーのハードやソフトの責任にするのは、テクニカルサポートの常套手段だ。)

 そのスタッフと話をした時間は、せいぜい5分。クレジットカードからは、しっかり$14.95が引き落とされていた。私は、このメーカーからは、2度と、何も買わないことを誓った。結局、後で、不良品だったことがわかり、メーカーからは、この$14.95を返金してもらったのだが、そのために費やした時間と労力は相当なものである。

 アメリカでは、メーカーや通販カタログから電話会社や航空会社まで、こうした電話自動応答システムは広く採用されている。ユーザーは、機械から流れるさまざまな選択肢の中から、自分のニーズにあったっものを選んでいくのだが、迷路のようなものも多く、次から次へ選択していき、30分かけてやっと全部聞いた後、結局、自分のニーズにあった選択肢がなかったなどというい場合がある。そうした場合、人間と話をするしかないのだが、お金を払わなければ、人間と話ができないというのは、アメリカでも珍しい。
あらゆる産業に広まっているこの電話自動応答システム、実は、アメリカ人の間でも不評なのである。最近、コンピュターメーカーのDECが、使用を中止し、代わりに70人のスタッフの採用を決定した。DECの場合、「パソコンを買いたい人は1を押し、ワークステーションを買いたい人は2を押してください」といった具合に選択肢を与えていたのだが、ということは、お客は、コンピューターを購入する前に、どの機種がほしいかを決めていなければならない。どれを買えばよいのかスタッフに相談したい人もいるだろう。コスト削減のために自動化したものの、自動化が行き過ぎて、顧客を失う羽目になったというわけだ。DECに続く企業は、多いと見られている。

 私は、愛想が悪く、役に立たないカスタマーサービス係であれば、機械と話をする方がマシだと思っている。アメリカには、どれだけお客が長い列を作って待っていても、同僚と平気でおしゃべりをしている銀行員やレジ係などいくらでもいる。(ヨーロッパに行くともっとひどいが。)飛行機に乗る機会の多い私などは、アメリカの航空会社の乗務員に、サービスなど期待していない。少なくとも人間として扱ってもらえば、よしとしている。お客だからといって、特別に扱ってもらえるなどと思ってはいけない。不愉快な思いさえさせられなければ満足だ。

 アメリカで、日本並みのカスタマーサービス、特に従業員の接客態度を期待するのは無理だが、返品のしやすさという点では、アメリカに軍配があがる。
この間、日本に発つ日の前日にカバンを買った。翌日、空港に着いた途端、ボタンがつぶれた。まさか、家に帰るわけにもいかず、そのまま、2週間、そのカバンを使った。
日本から帰ってすぐに、カバンを返品に行った。どれでも好きなものと交換してよいと言われ、別のメーカーのものと交換した。交換でなく、返金を望めば、返金もしてくれた。今回の場合は、商品が不良品だったので、使用したものでも、返品できて当然なのだが、たとえ、不良品でなくても、多分、返品できただろう。レジの店員は、返品したカバンが使用されたものかチェックすらしなかった。(彼女の態度には、「私の仕事は、レジを打つこと。それ以下の仕事も、それ以上の仕事もしない」というのがありありと見えていた。)

 無条件返品OKというのは、アメリカでは当たり前である。アメリカでは、本だって返品できるのだ。

 一方、こうした寛容な返品ポリシーを乱用する人も多く、アメリカには、一旦、着用した衣類や靴を返品する人などいくらでもいる。一晩のパーティーのために、始めから返品するつもりで、高級なドレスやタキシードを買って、使用後、返品する人や、ビデオを見た後、返品する人すらいるのだ。(これは、犯罪だと思う。)

 「いつでも返品できる」というのは、消費者にとって安心感であり、買うのを迷ったときに、「どうせ返品できるんだから、とりあえず買っておこうか」と購買欲をあおる効果がある。「気に入らなかったら、後で返品しよう」と思っても、実際、忙しかったり、面倒だったりして、返品し損ねることもある。ウォールマートのような量販店の場合、返品しようとしても、週末などは、サービスカウンターに長い人の列ができていて、並ぶのが大きらいな私などはめげてしまうのだ。

 日本の接客習慣とアメリカの返品ポリシーが一緒になった至上最強のカスタマーサービスの出現に期待したい。


有元美津世/N・O誌1997年8月号掲載  Copyright GloalLINK 1997

Revised 9/26/97

アメリカ西海岸便りインデックスへ