<アメリカ西海岸便り>

同性同士でも結婚できる?

--アメリカ最新ゲイ事情


 数週間前のことだ。友人のジョンが嬉しそうに報告してくれた。

「ミッツィー、やっと彼氏が見つかったよ」
「彼氏って、アンタ、彼氏は前から何人もいたでしょうに」
「いや、今度のは本物なんだ。まさに理想の彼氏なんだよ。すっごくかっこいいんだ。身長は190センチ、アメフトの選手みたいで。おまけにテキサス出身」(注:ジョンはオハイオ州出身で、カリフォルニア州出身者が嫌い。)
「それで向こうも同じ思いなわけ?」
「うーん。いや、これから猛烈にアタックするって言った方がいいかな」
「なんだ、片思いか」
「いや、絶対に振り向かせてみせるよ」

 会話から察して頂けるように、ジョンはゲイ(同性愛者)である。ジョンのデートの相手には、何人か会ったことがあるが、ジョンはなかなか面食いである。そんなかっこいいお兄さんなら、私も一度お目にかかりたいと思うのだが、ジョンは「彼は女には興味がないよ」と言って会わせてくれない。

 アメリカでは、昨年、州レベルで同性間の法的結婚を認めるかどうかで激しい論争が起こった。91年に、ハワイで3組の同性カップルが結婚を認められず、州に対して訴訟を起こしたのだが、昨年、その判決が出たからだ。州の巡回裁判所は、先月、そうした結婚を認める判決を下したが、被告側の提訴により、今後、さらに州の最高裁判所で争われることになる。ハワイで同性間の結婚が認められれば、他の州でもそれを認めないわけにはいかない。先手を打って、16州で、判決前に、他州で認められた同性間の結婚を認めないという法案を可決。米国上院も他州で認められた結婚を拒否する権利を各州に与える法案を可決した。

 以前親しくしていたミュージシャンの友人の周りにもゲイの男性が数人いた。そのうちの一人、ジェフは、日本人男性が大好きだった。彼の部屋には、少年隊だか、シブガキ隊だか(私には区別がつかない)のポスターがデカデカと貼られて、その中のナントカくんがお気に入りということだった。そして、平幹二郎主演の時代劇をテレビの日本語放送で見ながら、「彼はかっこいい」と言う。そう言えば、渡哲也か渡瀬恒彦も好きだと言ってたっけ。

 また、アリゾナに住んでいる頃に勤めていた会社は、大学教授のレズの女性が社長で、その彼女が社長補佐、恋人同士のテリーとチャックが働いていた。私が勤め出した頃には、社員は、その4人とストレート(異性愛者)の女性が一人。ストレートの人間が少数派という環境だった。

 年上のテリーが、「ネクタイが曲がっているよ」とチャックのネクタイを直し、チャックは「ありがとう、ママ」と冗談を言ってじゃれあっている二人を横目に仕事をしたものだ。

 やはりアリゾナに住んでいたとき、友人のエリックと一緒にスポーツクラブに通っていたことがある。そのスポーツクラブでインストラクターをしていたケンは、私たちが行く度に私の手を両手で握り締めて挨拶し、私たちにやたら愛想がよかった。エリックと私は、「きっとケンは私に気があるのだろう」と話していた。ある日、私が一人でクラブに行ったときのことだ。ケンの態度がいやに冷たい。私のことなどほとんど無視状態だ。そこでひらめいたのが、「ケンは私でなく、エリックに興味があるのではないか」ということだった。このエリックというのはストレートなのだが、なぜかやたらゲイにもてるのだ。

 数週間後、ケンがエリックにこんな忠告をした。「サウナでは気をつけた方がいい。突然、ファゲット(同性愛の男性に対する蔑称)が股ぐらをつかんでくることがあるから。僕はゲイだが、ゲイはそういうことはしない。そこがゲイとファゲットの違いだ」 やはり、ケンは私でなく、エリックに興味があったのだ。その話を聞いた後、エリックはサウナに入るのをやめてしまった。

 こうしてゲイの人たちと身近に接する間に、ゲイに対する神話・偏見は、そのほとんどが根拠のないものであることを確信した。

 神話その1: ゲイの男性は男前、自分の美しい姿に溺れるため、男性を愛するようになるなどとも言われるが、これは絶対にウソである。上記で紹介したゲイの中で、顔がいいのはチャックだけ。日本人少年の大好きなジェフは、度のきつい眼鏡をかけ、丸いお腹が飛び出していた。

 神話その2: ゲイは女っぽい。 日本では、トランスセクシュアル(性転換者)やトランスベスタイズ (異性の格好をする人)がテレビなどによく登場しているせいか、男性でありながら女性の格好をする人をゲイと勘違いする人が多いが、ゲイというのは、男性でありながら男性を愛する人たちである。たとえば、冒頭で紹介したジョンは、ハゲかけた毛深いずんぐりむっくりのオッサンである。ほとんどのゲイは、外見では絶対にわからない。

 神話その3: ゲイはきれい好き:確かにきれい好きのゲイは多いようだが、ジェフの部屋は物が山積みで、かなり汚かった。それに、彼の金髪の長い髪の毛は、いつも「一週間くらい洗ってないんじゃないか」という不潔感を漂わせていた。

 しかし、一番のゲイに対する偏見は、彼らが精神的または肉体的に異常であるというものだろう。彼らは、ストレートの男性とまったく何ら変わるところはない。ストレートの男性にもいろんな人がいるように、ゲイの男性も外見、性格ともに様々である。


有元美津世/N・O誌1997年2月号掲載  Copyright GloalLINK1997

Revised 4/24/97

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