<アメリカ西海岸便り>
子どもの命か個人の権利か銃規制の是非
先日、生まれて始めて銃を手にした。射撃が趣味の友人ジムが近くの屋内射撃センターに連れていってくれたのだ。
防音ヘッドセットと保護メガネをつけて射撃ルームに入ると、弾薬のにおいがたちこめ、ヘッドセットをしていてもかなりの銃声が聞こえてくる。ピストル、リボルバー、9ミリなど種類によって弾のつめ方、引き金の引き方などが違い、打った瞬間の衝撃度も違う。
初めての私などには的にあてることは無理かと思ったが、ジムに言われるとおり撃っていると意外にあたるのである。特に撃ったときの衝撃の一番高い9ミリでは、10発中8発が、一番真中にあたった。射撃センターの人の話では、女性の方が素直に教えられたとおり撃つので、初心者の場合、女性の方がうまいそうだ。ジムも、初心者の男の友人を連れて行ったことがあるが、私よりずっと下手だったという。
数ヶ月前から射撃にのめりこんでいるジムは、拳銃よりもライフルを撃つほうが好きで、ほとんど毎週末、屋外の射撃場に出向いている。カウボーイの格好をして、開拓時代のセットの中で射撃を競う「カウボーイアクション射撃」を始めたいそうだ。これは、子供を含め家族ぐるみで参加する家族向けイベントだという。(しかし、使うのは実弾であるというところに、私は首をかしげたくなる。)
ジムは、普通、周りの人間に射撃が好きなこと、銃を何丁も所持していることは言わない。銃を買って帰ったり、射撃から帰ったときも、近所の人の目に付かないように、暗くなってから家に運び込む。銃を持っていることがわかれば、家に押し入られて銃を盗まれ、それで犯罪を起こされるということもあり得るからだ。家の中では、弾丸は抜き、鍵をかけて保管しているという。しかし、銃保持者にはジムのように銃の管理を徹底している人ばかりとは限らない。
“家族を保護する大統領”というイメージを売り込みたいクリントン大統領は、様々な銃規制を法制化しようとしている。97年夏には、アメリカで合法的に販売される銃にはすべて、シリアル番号をつけ、コンピューターでトラッキングを開始すると発表した。目的は、ティーンエージャーへの非合法の銃販売を避けるためだ。また、10月には、拳銃メーカーとの間で、98年末までに、販売する拳銃に子供安全ロック装置を装備するという合意を取り付けた。
10月にワシントン州で拳銃安全法案に対する住民投票が行われたが、投票前の予測とは反対に、7対3で法案は却下された。この法案は、拳銃所持者に拳銃取扱安全研修の受講、許可取得(約2000円)、また州内で販売される拳銃への引き金ロック装置(1000円以下)の取付を義務づけるものだった。全米ライフル協会は、法案通過阻止キャンペーンに220万ドルを投じ、ビル・ゲイツは法案支持のキャンペーンのために多額の寄付をしたという。
この法案を提案した賛成派は、この法案の目的は、拳銃による子供たちの事故死を防ぐことで、車でいえば、運転免許とシートベルトを義務づけるのと同じだ」という。
この法案に限らず、全米ライフル協会を中心とした銃規制反対グループらは、規制反対の理由として、常に「憲法で保証された個人の自己防衛の権利および自由が犯される」と主張する。しかし、上記の法案も自己防衛の権利には触れておらず、研修を受けて許可を得さえすれば、犯罪者でない限り、銃を所持できるので、基本的人権が犯されるわけではない。
また、彼らは「犯罪者は、たとえ銃所持が禁止されたところで、非合法の形で入手する。法制化によって危険にさらされるのは、自己防衛の手段を奪われた法律に遵守する善良な市民である。規制が必要なのは銃ではなく、犯罪者だ」という。これはもっともな意見だが、子供を銃による事故から守るのとは、まったく別の問題だ。
12月、ケンタッキー州の高校で、14才の少年がクラスメートに向かって発砲し、3人が死亡するという事件が起こった。14才の少年が銃を入手できてしまうという事態が問題なのだ。
また、彼らは、銃が禁止されたイギリスやオーストラリアでは、窃盗など他の犯罪が増えたと主張する。これは事実かもしれないが、物品の喪失と人命の喪失とは比べられない。
昔、あるアメリカ人の知人が「こんなに自由に銃が入手できる国はない。この国は世界でももっとも自由だ」と自慢していたが、私は「そんな自由はいらない」と思った。この国でいつも感じることは、あるグループの権利や自由を守るために、たいていの場合、他のグループの権利や自由が侵されているということだ。子供たちが安心して育つ権利、善良な市民が夜道を歩く自由を奪われた国が、本当に“自由”といえるのかと不思議に思うは、私だけだろうか。
有元美津世/N・O誌1998年2月号掲載 Copyright GloalLINK 1997-1998
Revised 4/12/98 アメリカ西海岸便りインデックスへ