<アメリカ西海岸便り>

ベストセラー「隣の百万長者-アメリカの金持ちの驚くべき秘密」


 最近、自分が老後の設計をまったくしていないことに愕然とした私は、2月号でも書いたように、セミナーに参加するなどして投資について勉強している。そして4月に、またまた投資セミナーに参加した。
 今回面白かったのは基調講演だった。昨年からニューヨークタイムズとウォールストリートジャーナルでベストセラーになっている「隣の百万長者-アメリカの金持ちの驚くべき秘密」の著者である大学教授によるものだった。

 これは、純資産100万ドル以上の1,115世帯を20年にわたって調査した結果をまとめたものである。金持ちというのは莫大な遺産を親から相続し、高級住宅街に住み、高級車を乗り回し、ぜいたくな暮らしをしているといったステレオタイプがあるが、実際の百万長者の姿はそれとはほど遠い。
 現在、純資産が100万ドル以上の世帯は全米で350万世帯、全体の3.5%だが、この3.5%でアメリカの純資産全体の半分を占めている。

 平均的百万長者は、57才の既婚男性で子供は3人。8割が自営業者で、溶接業者、オークション業者、米農家、モビールホームパークオーナー、害虫退治業者、コイン・スタンプディーラー、舗装業者など、同書によると「つまらない」業種である(ちなみにアメリカの自営業者の率は全人口の2割以下であるから、これはかなり高い数字である)。
 百万長者の半数以上が年収13万1000ドル、平均年収は24万7000ドル(ちなみに、アメリカ全世帯の半数が年収3.5万ドル)。しかし、収入に占める納税額の割合は、全米平均よりかなり低い(つまり、彼らは“節税”に長けているのだ)。

 さらに半数以上が純資産額160万ドル、平均純資産額は370万ドル。8割が一代で築き上げた。また、8割が大卒だが、半分近くが学費を親に頼らなかった。ほとんどが家持ちだが、高級住宅街ではなく中流家庭地域に住む。自らは公立の学校を卒業したが、子供は私立に通っている割合が高い。
 スーツに399ドル、靴に140ドル、腕時計に235ドル、車には29,000ドル以上費やしたことがない。百万長者たちは、ヨーロッパの高級車や新車には乗らない。彼らの愛車は、主に中古のアメ車である。
 クレジットカードも、ニーマンマーカスやブルックスブラザーズなどの高級店のものよりも、シアーズやJCペニーなどの一般デパートのものを持っている割合が高い。
 つまり、百万長者になるためのコツは、浪費しないこと、質素な生活を送るということ。

 彼らに共通しているのは、妻が本人以上に倹約家であるということである。そして、金銭管理に普通の人よりも4倍以上の時間をかけている。
 これは、まるで大阪の金持ちだ。大阪の金持ちは金持ちであるということを見せびらかさない。(金持ちだとわかれば、たかられたり、泥棒に入られたり、ろくなことはない。)「ベンツに乗りながら、安いガソリンを探すのは、大阪人くらいだ」と昔の上司がぼやいていた。
 以前、大阪のお金持ちのぼんぼんとつきあっていた知人は、初めて大阪を訪れたときに新世界(コテコテの大阪)の大衆食堂のようなところに連れていかれて、ビックリしたという。(しかし、料理はおいしかったそうだ。)彼の父親には、薄汚い喫茶店に連れていかれ、欠けたコーヒー茶碗のコーヒーをすすりながら、「どや、おいしいやろ」と言われたらしい。(しかし、確かにコーヒーはおいしかったそうだ。)
 高くておいしいのはあたり前。安くておいしくなければ意味がない。大阪人も、アメリカの百万長者と同様、「バリュー(価値)」を求めるのだ。

 基調講演を聞きながら、「フンフン、“男性で既婚で子持ち、つまらない業種”以外は私にピッタリはまる。私も57才までに百万長者になれるだろうか」と希望が沸いてきた。(ある友人は「つまらない業種っていうのもあてはまってるよ」と励まして(?)くれたが。)
しかし、基調講演の最後で、同書がすでに75万部も売れており、今年、ペーパーバックが出版される予定だということを知った。100万部突破は間違いない。著者である教授二人は、この本一冊で百万長者となったのだ。
百万長者になるには、百万長者を調査して本を執筆すればいいわけだ。お金を払って投資セミナーなんかに参加するより、大阪の金持ちを調査し、「大阪の億万長者」という本でも書いた方が手っ取り早いかもしれない。



有元美津世/N・O誌1998年7月号掲載  Copyright GloalLINK 1997-1998

Revised 9/1/98

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