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有元美津世のアメリカ西海岸便り
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自己管理能力がない人には
現金社会の方が優しいか?
今、東京を訪問中でウィークリーマンションに滞在している。仕事仲間が予約してくれたのだが、滞在期間中の宿泊費をチェックイン時に全額現金で支払えという。クレジットカードは使えないというのだ。金額は13万円にのぼる。私は日本の銀行や郵便局にも口座を持っていて、日本円で支払うことは問題ないのだが、飛行機が成田に着くのは午後6時。都内に出る頃には8時を回っている。それも日曜である。ATMは使えない。1200ドルといえば、アメリカでは大金だ。そんな現金を持ち歩く人はまずいない。私はアメリカ国内では、現金を100ドル以上持ち歩くことは滅多にない。
成田に着き、スーツケースを宅急便で送るにも現金が必要。電車やバスで都内に出るにも現金が必要だ。日本ではクレジットカードを使えないところがたくさんあることを知らずに、大した現金も持たずに来日した外国人はどうするのだろう。
アメリカでは、空港に着き、電話をするにも、シャトルバスに乗るにも、駐車料を支払うにも、クレジットカードでOKだ。空港内で利用するカートの代金2ドルですら、クレジットカードが使える。
アメリカでは、クレジットカードがなければ生活に支障が出るといっても過言ではない。最近、アメリカに来て1年足らずの日本人留学生が携帯電話に加入しようとしたところ、信用履歴がないために断られた。前払いのプランであれば加入できるのだが、そうすると端末機器が無料でもらえるという特典がなく、機器を購入しなければならない。
彼女の場合、日本で取得したクレジットカードがあるので、レンタカーやビデオを借りるのは一応困らない。しかし、アメリカに住んで4年になる彼女の彼氏は、日本でもアメリカでもクレジットカードを持っていないため、レンタカーもビデオも借りられないのだ。レンタカーを借りる場合、クレジットカードで保証させられるが、これがないと250ドルの保証金を取られる。ホテルでも宿泊予定日数分の保証金が請求される。
アメリカでは、クレジットカードは、まさに運転免許証に次ぐ身分証明書であり、それを持っていない奴など信用ならない、ということなのだ。
外国人の場合、アメリカに来た当時は、国内での信用を築いていないので、まずクレジットカードが取れない。日本での信用履歴はチェックできないので、日本で何枚クレジットカードを持っていても考慮されない。そこで、銀行に定期預金口座を開いて、そこに預けた金額分だけの限度額のクレジットカードを発行してもらったり、限度額が低く取得しやすいデパートやガソリン会社のカードを取って、徐々に信用を築いていくしかない。支払を怠らなければ、頼まなくても、カード会社が勝手に限度額をどんどん増やしていく。
いったん、信用履歴ができれば、次から次にクレジットカードの申し込み用紙が届く。私の元には、少なくとも一日一通は申し込み用紙が届く。
最近は銀行などの金融機関だけではなく、ありとあらゆる業者が独自のブランドのクレジットカードを発行している。たとえば、先日は、入会しているスポーツジムから申し込み用紙が届いた。最近では、ヤフーやイーベイ(個人間オークションサイト)、オートバイテル(自動車販売サイト)、Quicken.com(金融ポータル)など、インターネットビジネスも、次々にクレジットカード会社と提携して、独自のブランドのクレジットカードを発行している。ヤフーの発行するカードは、マイレッジの代わりに、Amazon.comなどのオンラインストアで利用できるポイントを発行している。Quicken.comでは、クレジットカードの明細書をオンラインでクイックンの会計ソフトに直接取り込めるようになっている。
マイレッジやポイントではなく、利用額の1%、2%の現金を年末に還元するというシステムを取っているカードもある。
アメリカの場合、カード利用者の3分の2が、毎月、残高を繰り越すと言われているが、金利は平均年間16%にのぼる。アメリカでは○回払いというのはなく、残高は永遠に持ち越せる。月々最低支払額しか支払わない人も多く、そうすると返しても返しても、残高は増えていく。金利分など考えず、「月々10ドルの支払で、今すぐコンピューターを、テレビを」といった宣伝文句を鵜呑みにして、簡単に購入をしてしまう人が多いのだ。
そこで、顧客獲得のために、「今、他社での残高をうちのクレジットカードに移せば、当初の金利は4%、6%でいい」といった手法もよく用いられる。しかし、金利が低いのは最初の数ヶ月で、その後はやはり20%近くになる。これを繰り返すうちに、金利が雪だるま式で増えていき、クレジットカード地獄に陥る人は多い。98年、アメリカの消費者によるクレジットカード負債額は5600億ドルにのぼった。
便利なクレジットカード社会だが、クレジットカードに振り回されてしまっては、もともこもない。自己管理能力のない人には、現金社会の方が優しいといえるだろうか。
有元美津世/N・O誌2000年1月号掲載 Copyright GloalLINK 1997-2000
Revised 1/25/2000
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