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有元美津世のアメリカ西海岸便り
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あっちこっちをたらい回し
アメリカ警察のお役所体質
先月、訪米していた日本のクライアントがシリコンバレーへの移動中に財布とパスポートをなくしてしまった。現金はともかく、パスポートがないと帰国できない。そのクライアントは翌日アメリカを発つことになっていた。
サンフランシスコの日本領事館に連絡すると、仮証明書は即日発行してくれるという。クライアントが乗る飛行機は翌日の午後発なので、午前中に領事館に証明書を取りにいけば飛行機に間に合う。
証明書の発行には、写真と警察発行の紛失証明書が必要だ。写真はすぐに撮りに行った。紛失証明書も、電話で事件番号をもらえばよいということだった。
まずはパロアルトの警察に電話。「今、どこにいるのか?」というので「商談でマウンテンビューにいる」というと、「なぜマウンテンビュー市の警察に電話をしないのか」という。「パロアルトのホテルに泊まっている」というと、渋々受け付けを始めた。しかし、クライアントの泊まっていたホテルはパロアルトとメンロパーク市の境にあり、住所はメンロパークだった。すると「メンロパークの警察に電話しろ」という。先方はとにかく受け付けたくない。そこで今度はマウンテンビュー市の警察に電話をすると、「サンホゼに着いたのなら、サンホゼの警察の管轄だ」という。どこの警察も仕事をしたくないのだ。
サンホゼ警察に電話をすると、即日発行してほしければ取りに来いという。残念ながらその日の午後はアポイントが詰まっている。
時間がないので、結局、パロアルト市内でなくしたことにして、パロアルトの警察に直接行くことにした。「どこでなくしたか」細かい住所まで聞かれるので、ちゃんと紛失場所の住所を用意して行かなければならない。
パロアルトの警察に着いたのは5時数分前。受付はすでに閉まっていた。そこにいた警察官に「紛失届を出したい」というと、「まだなかに人がいるので、外にある電話から電話しろ」という。電話をすると、以前と同様、「どこでなくしたのか」をしつこく聞く。「○○のオフィスでなくしたと思う」というと、「〜と思うなどというアナタの意見は聞いていない。知りたいのはどこでなくしたかだ」という。「モノをなくしたのに、正確にどこでなくしたかなんてわかるわけないだろ!」と反撃。
紛失届を発行する警察官を無線で呼び戻したので、待つようにといわれた。その警察官は署に戻ってくるのに40分くらいかかるかもしれないという。
待っている間に中年女性が入ってきて、受付に怒鳴り出した。受付はしぶしぶ開けながら、「担当の警察官はもういない。明日こちらから電話する」と言っている。オバサンは「20分前に電話をして、警察まで20分かかるので5時1分に着くと担当者に言っておいた。今日、受け付けてもらわないと困る」とまた怒り出した。警察側は「時間外なのでどうしようもない」と受け付けようとしない。オバサンは「アンタたちは、市民が困っているのに、時間が来ればさっさとシャッターを下ろすのか!」
私も「あなたと100%同じ意見だ」とオバサンを応援し始めた。オバサンはかなり食い下がっていたが、結局、翌日、担当者が連絡するということで一件落着した。
私たちが待っている間、警察官が何人も行き来する。その一人をつかまえて聞いても、「もう勤務時間を過ぎていて、私はもうここにいるべきではないんだ。役目が違う」と言う。とにかくみな、仕事をしたくない。
担当の警察官が帰ってくると、すぐに紛失証明番号を出してくれた。番号の発行自体はすごく簡単だった。クライアントは、翌日、領事館で仮証明書をもらい、無事日本に帰国した。
家庭内暴力などでは警察が相手にしてくれないとよく聞くが、これでは無理もない。アメリカの警察のお役所体質を体験する一日となった。
有元美津世/N・O誌2000年12月号掲載 Copyright GloalLINK 1997-2000
Revised 1/1/2001
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