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有元美津世のアメリカ西海岸便り
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起こらなかったY2K非常事態
心配しすぎたのはアメリカ人?
心配されたY2K問題だが、結局、大きな問題はアメリカ国内外でも起こらず、皆、ホッとするとともに、拍子抜けの感があった。アメリカでは、Y2K問題対策に費やされた何十億という大金が無駄になったと政府の責任を問う声も出ている。政府側は、「対策をこうじたから問題が起きなかったのだ」と反論。何も対策を講じなければ、果たして今ごろ大変な問題が起きていたのかどうかは、誰も知る由もない。
一般市民の間にもY2K問題に備えて水や食糧を買い込んだ人たちはたくさんいた。赤十字では、飲水と調理用に一人一日1ギャロンの水を用意しておくように呼びかけていたし、年末の混乱を避けるために早めに食料品など蓄えを購入しておくよう呼びかけたチラシをスーパーで配布する地域もあった。水をドラム缶8缶買いこんだり、非常時対策に10万ドルを投じたという家族もいる。
ある非常食の販売会社では、99年の非常食の売上は、前年比1200%増。それまで100万ドルだった非常食の月平均売上は、99年には1200万ドルに達したという。Y2Kのおかげで、この会社は、創立以来、最高の年を迎えたのだった。
しかし、非常事態に備えて別荘で大晦日を過ごした同社の社長は、年が明けて会社に戻るのを躊躇したという。「1年分の非常食パックを1495ドルで買った人々にうらまれていないか」「年が明けたらお客からの苦情が殺到するのではないか」という心配からだ。
同社では、98年以前は年に3万ドルしか費やさなかった広告費を98年校半から99年にかけての18ヶ月で600万ドル投じ、全米の新聞やラジオネットワークでY2K用非常食を宣伝した。人々の恐怖をあおるということで批判を受け、新聞広告は打ち切ったという。
客からの苦情だけでなく、年が明けたら客足がピッタリ途絶えるのではないかという心配もある。最高の年だった99年に続き、2000年は最悪の年となるかもしれないのだ。この社長は営業販売員を200人から30人に減らし、会社を小さな事務所に移すことを考えている。
私も、Y2Kに備えて、水や缶詰などの食料品を少し買い貯めた。Y2Kのために、本当に何らかの混乱が生じるのかどうか、私も半信半疑だったが、Y2Kにかかわらず、いつ何が起こるかわからないので、緊急のために備えておこうと思った。特にカリフォルニアではいつ大地震が起こるかもしれない。昨年10月にかなり大きな地震があったが、その後にも私の住むオレンジ郡で地震があったところだ。私の場合、水や食糧の買い込みに数十ドルしか使っていないし、無駄なことをしたとも思わないし、誰にも文句を言うつもりもない。
あまり知られていないが、実際、昨年10月にサンホゼでは「ミニY2K」とも呼べる事態が起こったのだ。電話会社の下請けが間違えて回線を切断してしまい、電話回線が5日間使えなかったのだ。サンホゼに住む私のホストマザーも家の電話が使えないので、近くのスーパーなどに公衆電話を使いに行ったのだが、その地域一体の電話回線が不通で、公衆電話も使えない。また、銀行に行ったところ、電話回線が使えないため、業務が行えず、臨時休業だったという。これでは、お金もおろせない。
確かに心配しすぎるのはよくない。Y2K問題で銀行からお金がにおろせなくなるかもしれないと、自宅に多額の現金を置いておいて、12000ドルを泥棒に盗まれたという事件や(アメリカの銀行では貯金10万ドルまでは連邦預金保険公社(FDIC)による保険がかけられているから、現金で持っているより安全なのだが…)、Y2K問題に備えて自宅の地下室に蓄えていたプロパンガスが爆発したという事件もあった。
アメリカでは、Y2Kに備えて銃や弾薬の売上も伸びたという。「海外でミレニアムを過ごすアメリカ人はテロリストに注意するように」と国務省が警告まで発したのだから無理もないかもしれない。国外だけでなく、アメリカ国内のテロリズムや暴動などに備え、FBIまでが万が一のために待機していたのだ。
アメリカでは、大晦日といえばパーティーに行き、新年はどんちゃん騒ぎをして迎えるというのが一般的だが、今回は大人しく家で過ごすという人が多かった。混乱を心配して中止されるコンサートやショーもあった。
うちのスタッフが一人、大晦日をラスベガスで過ごしたが、歩行者天国となったストリップ(メインストリート)には、警察が待機していたという。ロサンジェルス警察も、暴動などに備え、あちらこちらに警察官を配備していた。ニューヨークにいたっては、化学兵器を使ったテロに備えて、警察官は防御マスクをつけて待機していたらしい。結局、ラスベガスでは年が変わるカウントダウンを表示する電光掲示板が止まっただけだった。
先日、たまたま飛行機で横に座ったキューバ人が、「Y2Kのために水や食糧を買い込むなんて馬鹿げている。アメリカ人は、何でも心配しすぎ」とあきれていたが、Y2K問題を一番心配したのはアメリカ人だったのかもしれない。
有元美津世/N・O誌2000年2月号掲載 Copyright GloalLINK 1997-2000
Revised 2/25/2000
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