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有元美津世のアメリカ西海岸便り
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豆腐にジャムやミルクをかける
“健康食”大豆ブームに沸くアメリカ食事情
アメリカでは、今、大豆が大きなブームを呼んでいる。特に枝豆は日本食レストランでは大人気だ。名称も「Edamame」として、そのまま使われている。冷凍の枝豆は、健康食品店だけでなく、今や一般のスーパーでも販売されており、卸業者では仕入れてもすぐに売り切れるという。
この大豆ブームは、昨年、米国食品医薬局(FDA)が大豆製品に対し「心臓病によい」という表記を認可したことが火付け役となった。心臓病だけでなく、大豆のたんぱく質が血液中のコレステロールを下げ、骨がもろくなるのを防ぎ、ガンを抑え、更年期障害を和らげる働きもあるといわれている。アメリカでは子供の肥満が問題になっているが、子供の脂肪摂取量を抑えるために、豆腐や大豆製品の学校給食への利用も認可された。4月は大豆製品月間にまで指定された。
アメリカでは生産される大豆の3分の1が、日本とヨーロッパに輸出されており、また大豆たんぱくは、おもに家畜の飼料として利用されている。これまで、大豆といえば、ベジタリアンの間では人気があったが、一般のアメリカ家庭の食卓に並ぶ食品ではなかった。
ところが、1999年には、300品以上の食品や飲料が市場に導入され、大豆の売上は2年間に3倍増、14億円以上にのぼっている。スーパーでは、大豆製品の店頭販売が行なわれ、大豆がいかに健康によいかを販売員が説明する。
ただし、大豆製品といっても、日本の大豆製品とはかなり違う。ソイ(大豆)バーガー、大豆シリアル、大豆ピザ、大豆バター(ピーナツバターのようなもの)、大豆マーガリン、大豆チーズ、大豆ナッツ(日本でいう炒り豆)などだ。豆乳もバニラ味、チョコレート味、イチゴ味などさまざまなフレーバーがある。その他、健康食品店に行けば、豆乳ミルクシェーキ、豆腐アイスクリーム、豆腐ヨーグルトなどが販売されている。
私も大豆バーガー(焼いてパンにはさむ)や大豆でできたひき肉もどきを日常的に利用しているがわりとおいしい。大豆でできたハムやサラミ、チーズも試してみたが、これらはちょっと食べられない。
大豆製品の中でも、豆腐はかなり前からアメリカの一般スーパーに並ぶようになった(ただし野菜売り場に置かれている)。私も、昨年、アメリカ人の友人2人に立て続けに、「豆腐のおいしい食べ方知ってる?」と聞かれた。私の場合、冷奴がいちばんおいしい。それ以外に思い浮かぶ食べ方は、味噌汁、麻婆豆腐、湯豆腐…彼女たちにどう説明してよいものやら…。「私が好きな食べ方は刻んだ青ねぎを乗せて、しょうゆをかけて…鰹節も乗せた方がいいけど、日本食品の販売店に行かないと売ってない」と説明すると、電話の向こうは「・・・・」。
彼女たちの考える豆腐の食べ方というのは、ジャムをつけたり、ミルクをかけるデザート風の食べ方なのだ。豆腐のレシピとしては、チョコレートムース、チーズケーキ、キャラメルディップなどが紹介されている。
20年前、初めてアメリカを訪れたときに、友人の母親が普通に炊いたご飯に砂糖とミルクとシナモンをかけて食べるのを見て仰天したが、これはいわゆるライスプディング。いまでは好物になっている。豆腐もジャムをつけると、案外いけるのかもしれない。
味のない豆腐をなんとか食べやすくしようと、「トーフメート」という豆腐用シーズニングまで登場し、豆腐を使ったタコスやサラダが簡単にできてしまうのだ。木綿豆腐は冷凍すると長持ちし、解凍してスパゲティソースやチリにひき肉変わりに使う、といったレシピも紹介されている。西洋風麻婆豆腐といったところだが、豆腐が冷凍できるなんて知らなかった… 大豆の粉を使ったレシピには、クッキー、マフィン、ピザなどもある。
大豆が北米にわたったのは18世紀のこと。しかし、家畜の飼料や工業用品などの商業穀物として扱われるようになったのは20世紀に入ってからだ。ヘンリー・フォードは大豆の信奉者で、1930年代、フォードの自動車はすべて大豆から変換したプラスチックなどの工業用製品を使用していたという。
北米では、大豆が人間の食べ物として認められるまで3世紀近くかかったということだ。今後、寿司のようにアメリカ人の食卓に根付くことを期待したい。
有元美津世/N・O誌2000年9月号掲載 Copyright GloalLINK 1997-2000
Revised 10/1/2000
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