危惧される夏の大停電
アメリカ電力自由化のツケ
カリフォルニアの“電力危機”が世界に伝わり、日本から「停電とか起こっているようですが、大丈夫ですか?」というメールが届くようになった。停電が起こったのはシリコンバレーのある北カリフォルニアで、南カリフォルニアは大丈夫だった。実は、ちょうどその頃、私はカリフォルニアにはいなかったので、カリフォルニアでそんな大変なことが起こっていたなどとは露も知らなかったのである。
しかし南カリフォルニアでも、電気料金は従来の倍に跳ね上がっている。近くの大手オフィス用品チェーン店では、電力節約のために店内の電気を消しているほどだ。
1998年に始まったカリフォルニア州の電力の自由化。当時は、この「西海岸便り」でも取り上げたように、「消費者が電力会社を選べる」「他州の電力会社から電力を買える」「電気料金が下がる」ということで大きな話題となった。電力を大量に購入して企業などに販売する中間業者も現れ、長距離電話サービスの販売を行っていた知人も、電力販売に着手していた。
私もすぐにバージニア州にあるエコ電力会社に乗り換えた。電気料金が下がるといってもわずか10%なので、私のような小口利用者にとっては微々たる額。それよりも、少しでもクリーンなエネルギーの利用、環境保護に貢献する方がいい。
その後、ECが大ブームとなり、“インターネット電力会社”が登場した。新たなeビジネスの研究も兼ね、私は“世界初のインターネット公益会社”、Utility.comのサービスに変更したのである。
先日、そのUtility.comから通知メールが届いた。「電力卸売価格の高騰により、競争価格での電力サービスを提供することが不可能となったため、カリフォルニアでの電力サービスは中止する。地元の電力配給会社に戻るか、別の供給会社を選ぶように」との内容だった。
同社も、従来の電力配給会社に比べ、電気料金を節約できるという触れ込みだったが、実際にはほとんど変わらなかった。電気料金の7割が電力以外のコストから成るというから無理もない。当時は、サービスの申込がオンラインででき、電気料金の請求書がオンラインで閲覧できるというのが売りだったが、今では地元の電力配給会社でもオンラインで請求書を見たり、支払いができる。
自由化されたのは発電部分だけで、電力の配給は、依然、電力配給会社によって行われているので、配給サービスに対し料金を課す地元の配給会社とUtility.comから請求書が別々に届くなど面倒で、正直いって、Utility.comが与えている付加価値というものはないのだ。だから地元の電力配給会社のサービスに戻っても何の支障もない。
カリフォルニアで起こった“電力危機”は、他州にも飛び火しており、カリフォルニアでの卸価格が高騰したため、カリフォルニアと同じ卸市場で電力を購入している州に影響が出ている。ワシントン、アイダホ、ネバダ、ユタなどの州でも電気料金が上昇しているのだ。他の州では小売価格が規制されておらず、アリゾナ州では電気料金が4倍に跳ね上がっているところもある。カリフォルニアの場合、卸価格が高騰したが、小売価格の上限が州政府によって決められているため、電力配給会社が倒産寸前に陥っているのだ。
この冬の電力危機は序の口で、最悪の事態は今年の夏にやってくるともいわれている。カリフォルニアでは、この夏、4100から6800メガワットの電力が不足するらしいのだ。アイダホ、モンタナ、オレゴン、ワシントンなどの北西部の州では、通常暑い日にはカリフォルニアに1000メガワットの電力を輸出する。しかし、今年は雨が少なく、この春と夏には水力発電量が3分の1減少するというのだ。北西部の州では、カリフォルニアを助けるためにすでに貯水池の電力を利用している。
北西部の州で電力が不足すると、これらの州もガス発電の電力に頼らなければならない。そうすると、既に高騰している天然ガス料金がさらに上昇する。そのため、これらの州ではカリフォルニアに電力を送らないようにしている。カナダの電力会社では12月にすでにカリフォルニア州への電力供給をストップした。倒産をささやかれているカリフォルニアの電力配給会社に、代金を支払える能力があるのかどうか定かではないからだ。
今年の夏、大停電が起こらないことを祈るばかりだ。
有元美津世/N・O誌2001年4月号掲載 Copyright GloalLINK 1997-2001
Revised 1/5/2001
アメリカ西海岸便りインデックスへ |