豊胸手術の効果のほどは?
アメリカ流“老い”とのバトル
アメリカに住む日本人の友人ミキが、今年に入って、豊胸手術を受けた。豊胸手術を受けたアメリカ人女性には、これまで何人も出会ったが、日本人では初めてである。さわらせてもらったが、クシャクシャしていて中に何かが入っているのがわかる。彼女のアメリカ人の夫は初めの3日間は喜んでいたそうだが、その後は興味を失って以前の無関心状態に戻り、5歳の娘はママの新しいオッパイが気に入らないそうだ。天然でないのが、子供にはわかるのだろう。
取引先の会社などでも、男性社員が「キャッシー、どこか変わったと思わない?」とニヤニヤしながら聞いてくる。私が「別に」というと、「豊胸手術したんだよ」と教えてくれる。キャッシーが豊胸手術をしたことを会社の皆が知っているのだ。そして、ほとんどの人が彼女の新しい胸を見せてもらったという。豊胸手術をした女性は、なぜか新しい胸を見せたがるのだ。人工なので自分の体の一部という意識は薄れるのだろうか。
ミキは、娘を母乳で育てた後、胸がなくなってしまった。最近、彼女の日本人の友人が豊胸手術を受けたのに刺激されて、自分も受ける気になったようだ。(しかし、その友人の新しい胸は野球のボールのように堅く、“失敗説”が流れている)。ミキは夫にも豊胸手術を勧められたのだが、その理由は「企業で出世するには、もっと女らしさを売り物にした方がいい」というものだった。彼は、数年前にも、「営業でお客さんに会うのだから、歯が黄色いとよくない」といい、彼女に歯の漂白を勧めたのだった。胸も歯も出世のためのツールということか…。
ミキは、昨年から皮膚科に通い、顔の染み取りのためにピーリングも行なっている。彼女の同僚には、まだ32歳だというのに、毎年、ケミカルピーリングを行なっている白人女性がいる。
私も昨年初めて顔にシミができて、皮膚科に行った。皮膚科でもらった漂白クリームは効かなかったが、オーストラリア人の友人に勧められ、インターネットで買ったオーストラリア産の植物成分からできたシミ取りクリームが効いている。
私の場合、肌が弱いので、ケミカルピーリングはできない。皮膚科では、漂白クリームが効かなければ、窒素を使った瞬間冷凍を試そうといわれた。これはドライアイスのように白い煙が出た脱脂綿をシミに一瞬つけると、少し黒くなり、2週間後には取れて落ちるというものだ。しかし、その後しばらくは真っ白で、周りの皮膚の色になるには、さらに2週間ほど時間がかかる。顔に真っ白な斑点が2週間残るのはいやなので、これは使えない。私のアメリカ人の友人は、イボ取りに使っているが、効果があるということだ。
アジア系はシミやソバカスを気にするが、欧米ではソバカスというのはチャーミングだと考えられている。白人にとってはシワの方が大問題であり、シワ取りやフェイスリフトなど珍しくもない。
アメリカでは、豊胸手術、シワ取り、シミ取り、脂肪吸引の広告が毎日のように届き、テレビでもインフォマーシャルが一日中流れている。「お金を出して直せるものは何でも直そう」ということだが、特に見かけが大事な、ここカリフォルニアでは、その風潮はいっそう強い。
ベビーブーム世代が中年にさしかかり、「ミッドライフ・クライシス」真っ只なかである。アメリカでは、男性の場合、突然、派手なスポーツカーを買ったり、若い女に走ったりするというのが典型的なミッドライフ・クライシスと考えられてきた。しかし、今では、男性でもシワ取りやフェイスリフトを行なうし、バイアグラの利用もミッドライフ・クライシスの一現象ともいえるかもしれない。女性の場合は、40歳ごろになると、シミや白髪が出てきて、老いが現実のものとして見えてくる。閉経、更年期障害もそう遠くはない。避けることのできない老いを受け容れられるまで、私の周りでも当分ミッドライフ・クライシスが続きそうだ。
5年間続いた「西海岸便り」も、今回が最後となります。
長い間、ご購読ありがとうございました。
有元美津世/N・O誌2001年8月号掲載 Copyright GloalLINK 1997-2001
Revised 1/9/2001
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