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有元美津世のアメリカ西海岸便り
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度が過ぎる幼児虐待への反応
こんな不幸が襲いかかる
以前、スーパーで自分の子供のお尻をたたいて、警察に連れて行かれた母親の話をしたが、また今回私の身近で同じようなことが起こった。
サンホゼに住む私のホストマザー、デビーは、二戸一住宅の片方を賃貸している。入居者の選択に非常に厳しい彼女は、今回のテナントを見つけるまでに数ヶ月を費やした。やっと気に入った若い夫婦、ジョーとジョアンに今年初めに賃貸。
ところが、その3ヶ月後、思いも寄らないことが起こったのだった。ある日、家の前に消防車が停まり、3人の男性が賃貸している隣のユニットに入っていったという。その後、救急車も到着し、夫妻の生まれたての赤ん坊が連れて行かれるのを見たそうだ。
そのジョーとジョアンに事情を聞いてみると、その赤ん坊が脳内出血を起こしたという。ちょうどそれが起こったときに赤ん坊を抱いていたのは、ジョーの方なのだが、警察は彼が赤ん坊を虐待したと決めつけているのだ。その結果、ジョーは留置場に入る羽目に…。
今、赤ん坊はジョアンの姉のところに預けられているが、ジョーには「赤ん坊には近づいてはならない」という命令が家庭裁判所から出されており、自分の子供に会いに行くこともできない。ジョアンの方は自分の子供に会いたければ、担当ソーシャルワーカーに許可をもらって、姉に自宅に赤ん坊を連れてきてもらわなければならない。自分から姉宅に会いに行くことは許されない。さらに、不可解なことに、夫婦が赤ん坊を取り戻すには法的に離婚をしなければならないという。
ジョーは、次は刑事裁判で裁判を受けることになっている。ジョーの職場では、彼が無罪であると信じており、いつでも職場復帰ができる状態で待っているという。元看護婦だった私のホストマザーも、「脳内出血はいろいろな原因で起こる。虐待だとどうして決めつけられるのか。たとえ彼が抱いているときに、脳内出血が起こったとしても、彼が意図的にやったとは考えられない」と言い、召喚されれば、ジョーの弁護に証人として出廷するかまえだ。どうも、ジョーがやったという確証はないようなのだ。
ジョーは、当分、職場に復帰できそうもないため、ジョアンは「家賃を払えないのだけれど」とデビーに相談に来たという。デビーは「家賃のことはいいから、少し様子を見れば」と提案。突然の出来事で、家で子育てに専念する予定だったジョアンは、急遽、働くことに。しかし、月に1200ドルの家賃は払えない。デビーはジョアンを助けるために家賃を少し下げ、新たに6ヶ月間の賃貸契約を交わした。
デビーにとっても、やっと見つけたお気に入りのテナントだ。出て行かれても、その後、すぐに希望のテナントが見つかるとは限らない。数ヶ月、空家にしておくくらいであれば、困っているジョアンに貸す方がよっぽどいい。一人暮らしの77歳の彼女にとって、テナント探しは大変な作業である。また、何ヶ月もの間、家賃収入を失うことになるかもしれない。
今回の事件で人生をズタズタにされたのは、ジョーとジョアン、生後まもなく両親から引き離された赤ん坊だけではない。ジョーの親も、ジョアンの親も、ジョーの保釈金30万ドルを捻出するために、自宅を担保に借金をしなければならなかったのだ。これで、親たちの老後の計画も大きく狂ってしまったかもしれない。
今回の警察や法廷、福祉事務所の理不尽な対応に、憤慨するデビー。周りの人に「わが国の司法システムは、“疑わしき罰せず”ではなかったのか?」と聞いたところ、皆から「昔はそうだったけど、今はちがうよ」との返事。しかし、そのシステムのおかげで、OJシンプソンは無罪判決を受けたはずだ。
子供を虐待から守るのは、もちろん大切ではあるが、それが度を過ぎると、罪のない人を不幸にし、結局、その子供が不幸になるという皮肉なことにもなりかねない。
有元美津世/N・O誌1999年11月号掲載 Copyright GloalLINK 1997-1999
Revised 11/26/99
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