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有元美津世のアメリカ西海岸便り

ハイテク産業の技術者不足に外国人雇用で対応


 アメリカ移民局では、過去数年、歴史的に移民数が少なかった国の国民に対し、永住権抽選プログラムを提供している。98年度(97年10月~98年9月)も、5万5000の移民ビザ(グリーンカード)発行に対し、数百万人の応募があった。10月1日から31日までが受付期間で、当選者はコンピューターによってアットランダムに選ばれ、99年4月〜7月の間に通知される予定だ。応募用紙の記入の仕方、封筒の宛名の書き方が規定通りでないために落選する人も多く、弁護士事務所をはじめ、多くの応募代行業者が出現している。

 日本も該当国にあたり、10月末には日本の知人から応募要綱を送るように頼まれたが、すでに〆切には間に合わないため、99年度に応募するということだった。しかし、彼はコンピューターエンジニアなので、「永住権抽選プログラムに応募しなくても、H1-Bビザという専門職ビザをスポンサーしてくれる雇用主さえ見つければいいんだから、アメリカで職探しした方が早いのでは?」と提案してみた。

 H1-Bビザというのは、原則的に技術者、建築家、会計士、化学学者、教師などの専門職に限り、雇用主にスポンサーしてもらう非移民ビザで、スポンサー企業でのみ働ける(一般に四大卒が条件だが、同等の訓練、経験があれば、高卒でも認められる場合がある)。3年ごとに更新し、仕事が終了したら母国に戻るのが原則だが、滞在中に永住権を申請する人が多い。

 最近、このH1-Bビザが物議を起こしている。アメリカでは、好景気に転じてから、深刻な情報技術者の不足が叫ばれており、ITAA(全米情報技術協会)によると約35万の情報技術職が空いているという。マイクロソフト、サン、オラクルなどが代表するハイテク業界は、「企業が必要とする技術を備えたアメリカ人労働者が不足しており、このままでは国際競争に勝てない、海外から労働力を調達せざるを得ない」という理由で、現在、年間65000のH1-Bビザ発行数の増加を議会に訴えた。98年度には、すでに5月にこの65000枠に達してしまったのだが、その多くが大手ハイテク人材派遣会社による申請だった。

 一方、IEEE(米国電気工学学会)をはじめとする技術者団体では、アメリカ人労働者の失業、企業による過去の外国人労働者の搾取を理由に、H1-Bビザ枠拡大に反対している。昨年、ネットスケープ、ヒューレットパッカード、ゼロックス、インテルなどでレイオフが続き、「情報技術者が不足しているのではなく、低賃金の労働力が不足しているのだ」と企業側が訴える労働者不足の実態を疑問視している。

 とくに40歳代以上の技術者の間での失業率が高く、50歳以上では17%にのぼっている。「企業は、習得技術が古く、賃金も高い熟年技術者を再教育するよりも、長時間勤務もいとわず、旬の技術を身につけている若い技術者やアメリカ人技術者よりも低賃金で働く外国人労働者を求めている。明らかな年齢差別だ」と何年も職探しを続ける熟年技術者らは訴える。

 ある大手保険会社では、250人のアメリカ人情報技術者を解雇し、人材派遣会社を通じ、H1-Bビザを保持する外国人派遣社員で置き換えた。この保険会社では1100万ドルのコスト削減につながったという。解雇された従業員らは、会社を相手に訴訟を起こしたが、責任を問われたのは派遣会社のみだった。

 結局、業界側と労働者側との駆け引きにより、外国人労働者(H1-Bビザ所持者)が従業員の15%に達している企業でのアメリカ人労働者の解雇規制、プログラム濫用に対する罰金、アメリカ人労働者の教育たのめの奨学金としてH1-Bビザ申請に対し500ドルを徴収という条件付きで、ビザの発行数は年間115,000に引き上げられた。

 じつは、私も3ヶ月前に新入社員のビザをスポンサーしたところで、ギリギリ500ドルの追加料金を免れたのだった。一部の儲けまくっているハイテク企業のために、さほど景気もよくない業界の零細企業までがあおりを受ける新制度に納得がいかないのは、私だけではない。追加料金を徴収するのは、ハイテク企業に限るとか、一定の割合以上の外国人を雇用している雇用主に限るとかにしてもらいたいものだ。


有元美津世/N・O誌1999年3月号掲載  Copyright GloalLINK 1997-1998

Revised 4/1/99

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