前回、アメリカでの外国人技術労働者増加の話をしたが、カリフォルニアのハイテク企業を訪れたことのある人であれば知っているように、技術者の多くがアジア系である。NASAでは技術者の4分の1が中国系だという。アメリカのハイテク企業を支えるのはアジア系の技術者といっても過言ではないだろう。一体、白人はどこに行ってしまったのかと思うのだが、マーケティングや財務などの要職は、ちゃんと彼らが握っている。
もうひとつ、カリフォルニアのハイテク企業を訪れてすぐに目につくのは、そのカジュアルな出で立ちだ(同じアメリカでも東海岸や南部、伝統的産業ではこうはいかない)。ハイテクのスタートアップ企業では、皆、ジーンズなど非常にカジュアルな格好で働いており、日本からお客が来るからといってスーツを着用したりはしない。「ドレスダウンデー」「カジュアルフライデー」として、金曜日はカジュアルな服装で出勤してもよいという企業が増えたが、スタートアップのハイテク企業の場合、毎日がドレスダウンデーだ。
日本からの訪問者は、必ずといっていいほどスーツにネクタイ着用なので、無駄とは思いながらも一応、「訪問先は非常にカジュアルな格好で出てきますので」と言うことにしている。「承知しています」という人も多いのだが、それでもスーツにネクタイは放せないようだ。日本人でも、若い人になると、カジュアルな格好で訪問する人もいるが、中年層になると、まず無理である。
日本から10時間も飛行機に揺られてくる間もスーツで来る人がいることを私はいつも不思議に思っていたのだが、ある出張者の話では、入社当時、「着いてすぐ相手先を訪問する場合、もし飛行機会社の手違いで荷物が出て来なくても、訪問できる格好でいるように」と先輩に言われたそうだ。なるほど。しかし、チェックインした荷物がなくなるという何十分、何百分の一の確率で起こり得る事態のために、10時間も窮屈な格好でいるというのは、ご苦労さまなことだ(それなら、私もときどきするが、スーツを手荷物として抱えて乗ればいいのでは…)。
ハイテクスタートアップ企業を引っ張るX世代の言い分は、「皆がスーツにネクタイといった仕事場に行くと緊張する。こいつら、過去の職場から抜け出せないのか…と思ってしまう」「ネクタイは脳への酸素補給をカットする」というものだ。彼らにとって、スーツとネクタイは、「抑制され、対応の遅い、型にはまった環境の印」でしかないようだ。
あるビジネス雑誌では、服装以外に、ハイテクスタートアップ企業と伝統的企業を次のように対比していた。
・2時間にわたるエグゼキュティブランチとマクドナルドでハンバーガをほうばる30分ランチ(私が知っているスタートアップ企業の社長らは、昼食など取る間もなく仕事をしている)
・間仕切りで仕切られたキュービクル、出世すると角のオフィスと間仕切りのない大きなオープンスペース(伝統的日本型。ただし、日本のように机は隣、向かいとくっついてはいない)
・水飲み場やキッチンでの井戸端会議とゲームルームでのピンボールや卓球(そうそう、私の知っている会社でも仕事の合間に卓球をしている)
いずれも後者がスタートアップ企業だ。こうしたカジュアルな職場の雰囲気は、チーム指向でバリアの少ない、よりリラックスした機能横断型組織として、社員のリクルート材料としても利用される。かくいう私も、社員を採用する際、「福利厚生シート」に「カジュアルな服装、ラップトップ支給、テレワーク」を記載している。「うちは毎日カジュアルでいいから、スーツとか買う必要ないんで、これで数百ドル浮くでしょ」「基本的に、決められた期間に決められた成果を上げられれば、毎日決まった時間に出勤する必要はない。出勤は週に2〜3回でいいので、ガソリン代を月200ドル節約できる」と雇用条件の交渉材料に利用できるのだ。給料などのハード面で大企業にかなわない中小企業は、こうしてソフト面でカバーするしかない(こうすれば、給料などのハード面で大企業にかなわない中小企業も、ソフト面で対抗できる?)。