税金対策のために、最近、家を買った。お世話になった不動産仲介者のボニーは、大手石油会社で経理を担当していたが、業務縮小でレイオフにあい、1年ほど前から不動産売買を始めたという新米。今、クライアントベースを築くのに必死である。ボニーには、「アンタは不動産売買をするには人がよすぎる」とよく冗談混じりに言ったものだが、セールスっぽくないところが気に入った。
日本で中古マンションを購入したときには、きれいに改装されていたので、修理改装が必要な部分はまったくなかった。今回の家は、室内のペンキを塗り直したり、カーペットを入れ替えたり、あらゆる植物が生え放題の庭をきれいにしなければならず、業者の手配が大変だった。ほとんどの業者はボニーが紹介してくれた。ボニー自身、3年前に家を買い、そのときに利用した塗装業者や引っ越し業者、今使っている庭師をを紹介してくれたのだ。
塗装業者は、ボニーが紹介してくれた業者A以外にも2軒から見積りを取った。現われた3業者とも、すべて韓国系だった。業者Aは、アメリカに20年いるにもかかわらず、英語があまりできず、意志の疎通がむずかしいので、見積りが一番しっかりしていてプレゼンがうまく、感じのよい業者Bを選んだ。しかし、業者Bに仕事を頼んだ照会先をもらって、「仕事ぶりはどうでしたか?」と聞いたところ、一軒目は、開口一番「アナタ、見かけにはうるさいほう?」と言うではないか!経営しているアパートの塗装を業者Bに任せたその女性は、「料金が安かったので私は満足しているけど、見かけにうるさい友人に紹介したら、『こんなので、仕事ができたと思っているなんて信じられない!』と怒っていた」と言う。タイルにペンキがいっぱいついていたそうだ。
う〜ん。うちの台所の床もタイルである。ペンキをつけられては困る。それに業者Aの方が50ドル安い。念のため、もう一軒聞いてみようと、2軒目の照会先にかける。6時ごろ電話をすると、子供が出た。「お母さんか、お父さんに代わってくれる?」と言うと、父親がいるようだが、セールスの電話と思ってか、出てこない。ちょうどこの時間帯、帰宅時を狙ってセールスの電話がよくかかってくるのだ。「10分後に電話をし直してほしい」と子供が父親の口移しに言う。そこで10分後にかけ直すと、また子供が出る。父親は出て来ず、子供が「メッセージを残してください」と言う。そこで「業者Bに照会先としてそちらの電話番号をもらった。仕事ぶりを教えてほしい」というメッセージを残そうとしたのだが、相手は4〜5歳の子供。「reference(照会先)のスペルわかる?」「うう〜ん」「R,E,F…」 「painting(塗装)のスペルわかる?」「うう〜ん」 単語のスペルをひとつひとつつづらされ、たった2行のメッセージを残すのに10分もかかってしまった。留守番電話につないでくれた方が早いのに…。
30分後、隠れていた父親から電話があり、「業者Bの仕事は満足のいくものでしたか?また使いますか?」と聞くと、「1ヶ所塗り忘れたところがあったので、連絡すると、すぐに来て塗ってくれた。満足している。また使いたい」とのこと。
ええ〜!塗り残しなんかあったら困る。なんでも仕事を頼むときには、照会をしてみるものだ。
問い合わせた2軒から、芳しくない話を聞いて、業者Bはやめ、業者Aを使うことにした。業者Aからも照会先を聞き、問い合わせたところ、オフィスビルを経営するその男性は、「オフィスを塗ってもらったが、非常にいい仕事をしてくれたので、自宅も塗り直してもらったくらいだ」と言う。よし、これなら大丈夫。
普通、照会先はこのように誉めてくれるはずである。業者Bは、照会先があのようなネガティブな照会をしているのを知っているのだろうか?それとも、他のところはもっとひどくて、あれでも一番マシな照会先なのだろうか?私も新しいクライアントには既存のクライアントを照会先として提出するようにしているが、照会先がちゃんとポジティブな照会をしてくれているかどうかチェックしておいた方がよさそうだ。
さて、塗装も終わり、新しいカーペットも入り、家は見違えたようになった。引っ越し業者も、少々高目だったが、ボニーが「非常に効率がよく、以前の勤め先が使っていたところだから間違いはないと思う」と太鼓判を押した業者に頼んだ。昨年の10号で書いたように、3年前に引っ越し業者に痛い目に合っている私は、たとえボニーの太鼓判つきでも、ちゃんと時間通り来るのかどうか、気がきではない。前日、確認の電話をすると言っていたのにかかってこないのだ。
しかし、当日、運搬人らは、時間通りに現われた。3人のエクアドル人は体は小さいが、役割分担ができていて、非常に効率よく動く。3年前に使った引っ越し業者に見せてやりたいものだ。難をいえば、2人来るはずのところが3人来たので、単価が上がり、見積りより多く取られたことだ。引っ越し屋が時間単位でお金を取るというのは、絶対に納得がいかない。
残るは、庭の根起こしである。ボニーが使っているメキシコ系の庭師は、何度電話をしてメッセージを残しても電話をしてこない。ボニーも何度も電話をしてくれ、会うたびに私に電話をするように言ってくれている。やる気はあるらしいが、どうも職人気質でサービス精神はないようだ。数週間この調子で、あきらめかけていた頃、電話がかかってきた。「忙しそうだね。ビジネス繁盛でいいね」と言うと、「そうでもない」と言う。そうでもないなら、新規顧客が何度も電話をしているのだから、さっさと電話をかけて来んかい!
仕事をしてくれるという日。気がついたら、彼はこちらに声もかけず、庭に入って黙々と仕事を始めていた。仕事はちゃんとやってくれ、満足。やっぱり職人気質なのだ。
実は、庭にレンガかコンクリートでも敷こうと思い、この日、見積りを取るために新聞広告で見つけた3業者が現われるはずだったのだが、誰も現われなかった。こういう人たちが、どうして仕事をしていけるのか不思議で仕方がない。当分、こうした業者とはかかわらないで生きていきたい。雇う際には人が推薦する業者を使うのが一番である。