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有元美津世のアメリカ西海岸便り

雇用主VS従業員
失業保険めぐる攻防戦


 同じビルに、コンピューターチップのモジュールを販売しているC社がある。経営しているのはキャッシーとテレサの2人。彼女たちもよく金曜日の夜遅くまで仕事をしているので、帰り際におしゃべりをすることがある。

 2人の話は決まって従業員のグチ。私はいつも立ったままで少なくとも30分はそのグチを聞かされる。

 このビルにはお互い3年ほどいるが、彼らの従業員の回転率は非常に高い。キャッシーは、よくヒスを起こして、怒鳴ったりするので、雇用主側にも問題があるのだが、2人の話を聞いていると、「よくも、まあ、こんなに質の悪い従業員を次から次に見つけてくるものだ」と思ってしまう。

 二人には、「お宅の社員は働き者でいいね」とよく誉められる。おまけに、「同じくらいよく働く友だち紹介してもらってよ」と求人まで頼まれる。実際、元社員を一人紹介して、数ヶ月勤めていたのだが、仕事内容が希望するものと違っていたので辞めてしまった。彼女の友人に職を探している人がいたのだが、「あの二人の下で働くのは、ちょっと…紹介した後、友だちにうらまれそう」ということで紹介はしなかった。

 C社では、今年になって、すでに3人の社員が辞めている。そのうち女性二人、ソニアとケイトは一年ほど勤めていたが、新人の男性社員は1ヶ月ももたなかった。C社では、特に男性社員のいつきが悪い。数ヶ月以上続いた試しがないのだ。「私の人生はずっとそう。男運がなくて」とテレサも自覚している。

 ある日、失業保険事務所から、辞めた女性のうち一人、「ソニアが失業保険の支給申請を出しているが、退職理由は?」という問い合わせが来た。アメリカでは、毎月の失業保険料は雇用主が支払い、社員の意志で辞職した場合には支給されない。

 C社は、「社員側の都合で辞職」と返答。ところが、その後、その社員が「雇用主の虐待的行為による精神的苦痛のために辞職せざるを得なかった」と上告した。そこで、C社は失業保険の審問に呼び出される羽目に…

 審問では、ソニアは証人として元同僚のケイトを、C社は証人として現社員のキャサリンを同行した。両者は小さな部屋で向かい合わせに座らされ、非常に気まずかったという。

 結局、ソニアには「雇用主に改善を訴える、転職するというオプションがあった」という理由で、彼女の失業保険の支給を求める上告は却下された。テレサとキャッシーはホッとしたものの、この審問だけで半日を無駄にしている。

 元従業員が失業保険を受給すると、雇用主側の失業保険率が上がるため、雇用主側にとっては大きな問題だ。(ちなみにアメリカの失業保険支給額は、日本と違い、給料の額にかかわらず、上限が決まっている。カリフォルニア州では、現在、920ドルである。)

 ある人材派遣会社の話では、短期派遣社員ですら堂々と失業保険の申請をするという。一応、失業保険事務所から退職理由の照会が来るので、「派遣業務完了」と返答するのだが、失業保険事務所はそんなことはお構いなしに支給するらしい。その度に保険率が上がる雇用主側としてはたまったものではない。書類の提出だけでも余計な負担である。一週間だけ働いた派遣社員の失業保険の書類を、一年後にもまだ処理しないといけないという、なんとも理不尽なことが頻繁に起こっているのだ。

 こうした問題は失業保険だけではない。労災もそうである。カリフォルニアでは、偽って労災を申請するケースが多く、C社では、それ以前には、もともと子宮関連の病気をかかえた社員がやってきて、3ヶ月だけ勤めて辞めてしまったという。その後、この病気に関し、その社員は労災申請をした。C社では彼女が辞めた一年後にも、まだ労災関連の書類提出に追われていた。

 C社では、1ヶ月前に、ソニアの後任として、新しいオフィスマネージャーを雇った。彼女は仕事はできるようだが、キャッシーとテレサがいなくなった途端、私用電話をかけまくる。先週の金曜日にはあるパンを探していて、あちらこちらのスーパーに電話をかけまくり。キャッシーとテレサが不在だった月曜日は、母親のカーペットの掃除をしてくれる業者探し、母親の眼鏡の保険に関する苦情、歯の検査に関する歯医者への電話で一日が過ぎた。

 近くに座っている、うちの社員に電話の内容が丸聞こえで、彼は「仕事、やってられませんよ」とぼやいている。うーん、うちの社員まで巻き込まないでほしい。審問があっても、証人には行かせないぞ〜。


有元美津世/N・O誌1999年9月号掲載  Copyright GloalLINK 1997-1999

Revised 9/26/99

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