<アメリカ西海岸便り>

募金集めに有効なマラソンカリフォルニアスポーツ事情


 私は、今年初めから座骨神経痛に悩んでおり、カイロプラクターから針や指圧まで通ったが、どれも一時的な対応法で根本的な治療にはならない。
 日常生活を営む上ではたいした問題はないのだが、運動が制限されるのが困る。合気道もステップエアロビクスも痛くてできず、水泳以外に、アクアエアロビクスを試してみた。以前から、ジムのプールでオバサンたちが浮きなどを持って何かやっているのは知っていたが、私は「あれは泳げない人のための水中運動」と思い込んでいた。
 ところがやってみるとなかなか面白い。エアロビクスで膝や腰を痛める人は多いが、アクアエアロビクスだと水の中なので抵抗が少なく、普通のエアロビクズができない人でも無理なくできる。そのため、参加者には、床の上ではお目にかからないような白髪の女性や“クィーンサイズ”の女性がほとんどだ。(“クィーンサイズ”といっても、アメリカの“クィーンサイズ”なのでかなりのサイズ。) 私としては、水泳の前の準備運動としてちょうどよかった。
 しかし、飽き性の私としては、何週間かするうちに飽きてきた。それに、やはり普通のエアロビクスに比べて運動量が少なく、体がなまり気味のような気がした。
 「腰痛があるなら自転車を試してみたら」とアドバイスしてくれる友人もおり、自転車、ステアマスターズ、トレッドミルなどのカーディオ系のマシンを物色した。実は、じっとしていられない性格の私は、こうした関連のマシンが嫌いなのだ。実際に動かない自転車なんかに30分も座っていられない。
 他の州からカリフォルニアに引っ越してきた当初、週末の昼間からエアコンの効いたジムで自転車やステアマスターズを黙々とこいでいる人たちを見て、「まるでブロイラーだ」と思ったのを覚えている。それも彼らは、こぎながら本や新聞を読んだり、ウォークマンを聞いたり、テレビを見たり、皆、完全に自分の世界にひたりきっている。「よく運動しながら本なんか読めるよな。私はどうせ自転車乗るなら太陽の下で乗るわい。あんなカリフォルニア人みたいには絶対になるまい」と誓ったのだった。
 運動のためと、仕方なく、絶対に乗るまいと思っていた動かない自転車を試してみた。ちょうど仕事が超忙しかったため、仕事関連の資料を読みながらの挑戦だった。やってみると、自転車をこぎながらでも読めるのである。「運動をしながら仕事ができる。これはいい」と、私はとうとう“ブロイラー・カリフォルニア人”の仲間入りをしてしまった。(座骨神経痛がよくなった今では、“ブロイラーサイクリスト”をやめて、ステップエアロビクスに戻っている。)
 最近、インストラクターについて、皆で一緒に自転車をこぐという「スピニング」という新しいクラスも始まっている。よくもまあ、こう次から次へと新しいプログラムを思いつくものだと感心するが、2年ほど前、リーボックの「スライド」というのも流行った。靴下のようなものを靴の上からつけて、特製マットの上をスケートのように滑りながら運動するのだが、これはなかなか面白かった。残念ながら、他のエアロビクスよりも危険ということで、訴訟を恐れたジム側がスライドのクラウを廃止してしまった。
 「腰にあまり負担がかからないのでは」とランニングにも挑戦した。9月の末、地元で開かれた乳ガン基金集めのための「治療のためのレース」に参加した。プログラムは、5キロ走る女性の部と男女混合の部、1キロのランニングと競歩の部、子供の部から成る。参加費は一人22〜25ドル。賞金は1位の1.200ドルを始め、計5.000ドル。
 地元の新聞や大企業がスポンサーとなり、当日は健康関連の企業や団体がブースを出して製品やサービスを宣伝した。 参加者は16.000人以上にものぼり、一大イベントとなった。
 参加者には元オリンピック候補の長距離選手や世界チャンピオンなどもおり、彼女らは5キロをたったの15分で走るのである。日ごろ、運動はしているが、走り慣れていない私は、「なんでお金払ってこんな苦しい思いをしなあかんねん。こんなこと2度とやるか!」と思いながら完走した。しかし、ゴールした後には、気持ちがよくて、「やっぱりまた走ろかな」と思い始めるのである。
 6月末には、アメリカ癌協会主催のレースにも参加した。これは夜7時から翌日正午まで24時間以上走りつづけるというものだったが、グループ参加で、私たちのグループは、各メンバーがそれぞれ30分から1時間ずつ走り続けた。大学のトラックで行なわれたが、真中にテントを張って、バーベキューをしたり、バレーボールしたりと、夜通しの体育祭のようなものだった。
 健康指向の人が多いカリフォルニアでは(北カリフォルニアの人間に言わせると、南カリフォルニア人は健康指向なのではなく、ルックス重視の“イメージ”指向ということだが)、この種の基金集めの運動イベントは月にいくつも開かれている。
 先の乳ガン基金のレースの後にも、10月には「家庭内暴力からの解放」のための競歩、11月には「一時的ホームレスのためのレース」「殉職警官のための追悼レース」、12月には「女性のためにより安全な世界を築くためのレース」等など。12月にベニスで開かれる「クリスマスラン」は、毎年、違った社会奉仕団体に募金する。
 ランナーの競争心とボランティア精神とを組み合わせた非常に有効な資金集めの方法だと思う。


有元美津世/N・O誌1998年1月号掲載  Copyright GloalLINK 1997

Revised 3/7/98

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