<アメリカ西海岸便り>

たまごっちついに上陸!全米にも大ブームの予感


 5月1日、あのたまごっちが、ついにアメリカに上陸した。ニューヨークやサンフランシスコのFAOシュワルツでは、早朝から長い行列ができた。(並んでいたのは日本からの観光客が多かったそうだが。)並んでいる人の中には、「何だか知らないけど、子供に連れられてやって来た」という親や学校をさぼって並んだ高校生もいた。

 FAOシュワルツのニューヨーク5番街店では、24時間以内に1万個、サンフランシスコ店では、数時間で3000個が売り切れた。

 ここ南カリフォルニアでも、近所のトイザラスに問い合わせたところ、「“たまごっち”は売り切れ。次の入荷は5月29日」という。売れているというのは、本当のようだ。

 英語では、たまごっちは、Tamagotchiと綴られ、「タマグッチ」と発音される。アメリカ版は、もちろん、英語表示だが、それ以外にも、日本版とは異なる点がいくつかある。まず、たまごっちの行動や登場するキャラクターが違う。食事の形が、日本版はごはんだが、アメリカ版はパン。たまごっちが死んだとき、日本版では、十字架が立ったお墓と足のない幽霊が現われるが(お墓は西洋式で、幽霊は日本式というのが、何ともアンバランス)、アメリカ版は、天使となって、生まれた星に戻って行くという設定。バンダイによると、ベータ版テストの際に、アメリカ人には幽霊の部分が理解できなかったためという。(そりゃそうだ。アメリカでは、人が死んで幽霊になるなどというのは聞いたことがない。)それに、アメリカでは、“死”をオモチャにするのはタブーである。また、「我慢するのがきらいで、即時の喜びを好む」といわれるアメリカ人向けに、アメリカ版は、ユーザーのコマンドに応じるスピードが速いらしい。

 たまごっちは、実際にアメリカの店頭に現われる前から、インターネット上ではかなり話題になっていた。ネット上には、すでにたまごっちユーザーのための英語によるサポートグループが登場している(http://www.concentric.net/~maido/tamagotchi/tamahome.shtml)。アドバイスコーナーやチャットコーナーには、アメリカだけでなく、アジアやヨーロッパから子供たちのメッセージが並ぶ。「シンガポールでは手に入らないので、マレーシアに行って買った」「イギリスでは、どこで手に入るんだ?」「ドイツでは、まだ発売されていないけど、どうしてもほしいから、誰か売ってくれないか?」等々。

 中には、こんなエピソードまである。「今日、学校で、僕のたまごっちが誘拐された。ロッカーに“返してほしかったら、20ドル出せ”という脅迫状が入っていて、身代金を要求されている。何て社会だ!」 「たまごっちを持っていると男の子が寄ってくる!」と思わぬ波及効果に喜ぶ女子高生もいる。

 たまごっちの売買も盛んで、たとえば、「世界中どこにでも、DHL代も含めて$80-140で送付」という書き込みや、「たまごっち養子ページ」(http://handel.pacific.net.sg/~dinog/tamaone.htm)まである。子供の遊びも国際化したものだ。

 「サラリーマンまではまってしまった日本と違って、大人までには広がらない。アメリカでは、主に8才から16才の子供を対象に販売される」と言われているが、はまっている大人はアメリカにも結構いる。

 ニューヨーク・タイムズ紙では、ライターによる「たまごっち生育日記」が5月3日から連載された。この連載のおかげで、彼と彼のたまごっち、トミーは、TVのトークショーに出演。1週間、トミーを育てたこのライターは、たまごっちを育てる回りの人間にアドバイスさえ与えるようになる。ある日、テキサスに住む56才の女性から「たまごっち育児の相談」が寄せられた。「ヨーロッパに2週間旅行に行くんだが、時差のせいでたまごっちは死んでしまうのではないか」

 アメリカには、コピー品も続々と現われており、このライターのもとには、バンダイの競争相手で、コンピュキティやマイクロチンプなど動物シリーズ、ギガペットを発売したタイガーエレクトロニクスからデジタルドッグが送られてきたそうだ。忍者タートルやスタートレックでお馴染みのプレイメート社では、動物でなく、人間の赤ん坊を育てるネイノ・ベービーを発売する予定だ。このネイノ・ベービーは、ちゃんと育てないと、家出してしまうのだ。

 発売から、まだ2週間。たまごっちが、アメリカで、パワーレンジャーのような大旋風を巻き起こすのか、セーラームーンのような大失敗に終わるのか、結論を出すにはまだ早すぎる。「こんなものは、アメリカでは売れない」という意見も少なくない。しかし、既にはまっている人の数といい、コピー品の登場といい、かなりのブームを巻き起こすのではないだろうか。

 日本のたまごっち現象を「住宅事情が悪く、ペットもなかなか飼えないため」「日本人の横並び意識」と理由づけていた評論家たちは、アメリカのたまごっち現象をどう説明するのだろう。


有元美津世/N・O誌1997年6月号掲載  Copyright GloalLINK 1997

Revised 8/28/97

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