SOHO向けサービスの普及
ひと足先にSOHOブームを迎えたアメリカでは、昨年、企業の在宅勤務者は1110万人、在宅型ビジネスは2070万に達したと言われている。こうして増大するSOHOの購買力、ニーズを察した企業はSOHOをターゲットにさまざまな製品やサービスを開発している。
SOHO市場にもっとも積極的なのは電話会社やオフィス機器メーカーだろう。自宅にISDNや2本目の電話回線敷設の申し込みが急増しており、シリコンバレーのある北カリフォルニアでは半年待ちと言われている。電話線一本で電話、ファックス、モデムと違った番号を割り当てられるサービスも開始されており、一番号あたり月4〜7ドルとSOHOにとって手ごろな価格である。
電話機器も複数回線対応のもの、ディレクトリ作成用キーボード付きのもの、電子カレンダー、電子メール、ボイスメールのついたもの、20分の録音ができる留守番電話付きのものなど、マルチ機能の機器が次々に登場している。
電話会社を始め、HP(ヒューレットパッカード)、ゼロックス、マイクロソフトなど、自社のホームページにホームオフィス・スモールビジネスセンターを設けるところが増えている。
サービス分野でも、これまで大企業のみをターゲットにしてきた企業が、競ってSOHO向けプログラムを開発している。クレジットカード市場でのシェアが大きく落ちているアメリカンエキスプレスでは、盛んにスモールビジネスをターゲット。保険会社はスモールビジネス向けプランを作り、個人事業主向け健康保険やビジネス保険、従業員向け福利厚生などスモールビジネスを提供している。大手コンサルティング会社、アーサーアンダーセンでは新たにエマージングビジネスコンサルティンググループを設立しています。
SOHOの増加は新たなビジネスチャンスを生んでおり、スモールビジネス向けスモールビジネスも次々に登場している。弁護士を使わず低料金で法人が設立できるオンライン法人設立サービス、事業計画書作成サービス、経理代行サービス、個々のコンピューターで印刷できる名刺やパンフレット用紙の通販ビジネスなどだ。事業計画書作成ソフトや従業員マニュアル作成ソフトなどのスモールビジネス向けソフトも充実しているが、最近では、インターネット上で切手を購入してプリンターで印刷できる電子切手ソフト(米国郵政公社が試験開始)や契約書のひな型をカスタマイズしてダウンロードできるインターネットビジネスも登場している。
その他、ユニークなスモールビジネス向けサービスには、次のようなものがある。
<バーチャルアシスタント>
「自宅に他人を入れたくない」「余分なスペースがない」「人材派遣会社はホームオフィスには社員を派遣してくれない」というホームオフィスオーナーのために登場したのがバーチュアルアシスタント(VA)だ。VAは、電話、ファックス、電子メールを用い、クライアントとの物理的距離には関係なく、郵便送受、スケジュールの管理、アポイントや会議のアレンジ、出張の手配、経理業務、ホームページ作成などの業務をこなす。たとえば、自宅にクライアント用の電話線を引き、そのクライアントにかかってくる電話はすべてVAが答えるというケースもある。オフラインのアシスタントにできて、VAにできないことはほとんどないということだが、書類を送付することにより、何百マイルも離れたクライアントのために、ファイリングもやってのける。
VAの料金は、経験に応じ、一時間20〜70ドルプラス経費実費請求。一見、高く思える料金だが、総合的に見ると社員を雇うよりコスト効果的だ。VAには、1)社員用に備品を買う必要はない、2)固定費を増やさずにすむ、3)雇用関連の税金を支払う必要がない、というメリットがある。また、従業員を雇うということは、管理業務が増えるということでもある。周りに人がいると無駄話をしてしまうので、自分一人で仕事をする方が能率的だというクライアントもいる。
VA養成ビジネスも始まっており、研修もすべてバーチャルで行われる。 VAスキルや在宅ビジネスの構築方法に関するクラスが、高度の会議通話技術を用いた、電話によるテレクラスで行なわれる。教材や宿題は、電子メールやウエブサイトを通じて配布する。
VAは、3年以内に、会計士などのようにスモールビジネスにとっては必要不可欠なサービスとなると見る向きもある。
<電子アシスタント>
電子アシスタント、 ワイルドファイアは、音声認識技術とデータベース機能を利用し、すべて音声で操作ができ、ボタンを押したりする必要はない。
「ワイルドファイア」と言うと、「いかがいたしましょうか?」と答え、「電話してくれ」「誰に?」 「クリス・マッケンジー」「どこに?」「携帯に」といった調子で対応する。電話に出ている間に他から電話が入ると、「○○さんから電話が入ってます」と通話者を告げてくれる。「出る」と言って、そのまま通話に加え、会議通話にすることもできるし、「メッセージを取ってくれ」と言えば、ボイスメールに伝言を残してもらえる。「コールバックしてくれ」というだけで、ワイルドファイアが自動的にメッセージを残した相手に電話をかける。よく電話をしてくる相手から電話がかかってくると、「オー、ハーイ」とあいさつさえする。
150の名前、各名前に対し電話番号6個まで保存するアドレス帳機能によって、名前を言うだけで電話がかけられ、その他、どこからでも利用できる会議通話機能、ファックス転送機能、電子メール機能などが装備されている。仕事場、自宅、携帯、ファックスなどの番号をすべてひとつに統一し、その番号に電話をすれば、本人がどこにいようがつながるというサービスもある。スケジュール管理もするので、外出の多い人は、携帯電話を含むあらゆる電話やボイスメールに通話を転送でき、どこにいても重要な通話を受信できる。 第一世代のワイルドファイアゴールドのユーザー数は5000人だが、その75%がビジネスユーザーで、従業員20人以下の企業が多いという。
使用料金は月額150〜200ドルだが、より低価格で同サービスを提供するためにネットワークバージョンが開発されており、これは電話会社を通じて販売される。西海岸の電話会社は、この夏までに、ワイヤレス利用者向けにPCS(Personal Communications Services)を通じたサービスを開始する予定だ。料金は月額7〜10ドルとゴールドよりかなり低価格になっている。
今年後半に発売されるエンタープライズバージョンは、スモールビジネスや25-30人のワークグループが対象とし、デスクトップアプリケーションにコンタクト管理、メッセージング、スケジューリング機能を加え、コンピューターでワイルドファイヤの操作が行なえる。
<SOHO向けイントラネット>
いままで大企業にしか利用できなかったイントラネットを、スモールビジネスにも提供しようというのが、ホットオフィス・バーチャルオフィスサービスだ。LANを引いたり、サーバを購入したりすることなく、低コストでバーチャルオフィスソリューションが利用できる。
インターネットへのアクセスとブラウザさえあれば、ホットオフィスを使って電子メールの送受信、プライベートのオンライン会議室で同僚や取引先と会議、電子掲示板にメッセージ掲載、宅配便トラッキングなどが、いつでもどこからでも利用できる。たとえば、出張中にホテルの部屋で、マイクロソフトオフィスを使って会社にいる同僚と共同で書類を作成したり、取引先でインターネットを通じてプレゼンテーションを行ったりということが可能なのだ。
ユーザーには、法律事務所、会計事務所、広告代理店、ヘッドハンティングサービス、医院など。価格は、ユーザが一人であればウエブスペース10MBで月額19ドル、25人であれば250MBで199ドルと手ごろな価格になっている。
<電子福利厚生サービス>
煩雑な福利厚生の管理を、大企業は社内で独自のシステムを開発したり、クライアント・サーバ用ソフトを購入することによって処理しているが、中小企業にとってはどちらもコスト高で、効果的なソリューションではない。中小企業でも利用可能な、初のインターネットベース人事・福利厚生管理サービス、エンプロイーズが登場している。
これは、従業員の情報をウエブサーバ上に保存し、人事担当者や保険会社などが、ブラウザさえあれば、随時どこからでもアクセスできるようにしたものだ。中央集中型データベースを構築し、リアルタイムの情報管理が可能である。
人事管理プロセスを自動化し、莫大な書類の処理過程をペーパーレスにし、データおよび作業を保険会社などの第三者と共有でき、従業員がセルフサービスでデータをアップデートできるといったメリットがある。 アメリカの労働者の転職回数は増加の一途であり、それに伴い福利厚生の管理業務は増大する一方である。2000年には、契約社員が労働者全体の半分を占めると予測されており、今後、従業員データの移動ニーズは高まる。現在、フォーチュン500企業の11%が従業員福利厚生加入プロセスをイントラネットまたはインターネット上で行っており、99年までには、これが9割に達すると予測されている。
こうしたSOHO向けサービスの普及が、SOHOサポート体制、ビジネス運営コストの低下につながっているといえるだろう。
文・有元美津世 (財)科学技術と経済の会 『技術と経済』1998年7月号
JATESニュースレター101号(1998年6月10日)掲載
SOHO情報センターTopへ
Revised 7/1/98 emi-othpage