冗談でしょ?
アメリカでテロ事件が起きたとき、私はカナダのビクトリアにいた。ちょうどその日アメリカに戻る予定で、出発の前に朝から店で買物をしていると、店員に「今日は、アメリカには帰れないですよ。国境は閉鎖されていますから」と言われた。
「世界貿易センターとペンタゴンが襲撃された」という話を聞いて、私は何度も「冗談でしょ?」と繰り返した。まるでハリウッド映画のような話で、私はその若い店員にからかわれているのだと思ったのだ。
急いでホテルに戻って情報を収集した。飛行機ではなく、フェリーでシアトルから渡っていたのが幸いした。港は閉鎖されておらず、フェリーは運航されていたのだ。
アメリカの全空港が閉鎖され飛行機は飛んでいないため、その日シアトルから出られないことはわかっていたので、シアトルで1泊するためにホテルを予約した。
飛行機に乗れない人たちでホテルは満杯かと思ったが、部屋はすぐに確保できた。飛行機も翌日の便に変更できた。その時点では、翌日午後には飛行が再開する予定だといわれた。
港に時間通り着いたものの、警備は高まっていた。アメリカ移民局員の到着が遅れ、港で2時間待たされた。フェリーに乗る前に、乗客全員の荷物点検が行なわれ、シアトルに着いて、再度、荷物の点検が行なわれた。
いつも観光客や地元の人々でにぎわうシアトルのダウンタウンは、人気がなく、ほとんどの店が閉まっていた。シアトルに本社のあるスターバックスは、事件直後、全米の店を臨時休業したという。
事件当日の夜の時点では、空港は、翌朝9時に再開する予定ということだったが、念のため、レンタカーを予約した。飛行機が飛ばないなら、南カリフォルニアまで、1200マイル(1900km)近くの道のりを運転して帰るつもりだった。問題は、片道のレンタルの場合、空港のレンタカー事務所に車を借りにいかなければならないことだった。その時点では、空港も、空港周辺の道も閉鎖されていた。
丸2日もかかる!
翌朝、車よりもアムトラックのほうが早いと聞き、さっそくアムトラックに電話をしたが混んでいてつながらない。ウエブサイトにも行ってみたが、パンク状態で遅くて使いものにならない。仕方がないので、駅までタクシーを飛ばした。
駅に着いたのが9時15分。シアトルからカリフォルニア行きの列車は、9時45分に出発するという。列車は1日に1便しかない。急いでタクシーを飛ばし、ホテルに荷物を取りに帰り、ギリギリ列車に乗ることができた。
列車に飛び乗ってから時刻表をよく見ると、その列車がロサンジェルスに到着するのは、その日の夜ではなく、翌日の夜だということがわかった。シアトルから丸2日かかるのだった。これなら、車を飛ばしたほうが速かった。私の場合、ロサンジェルスからさらに車で1時間かかる。それも誰かに迎えにきてもらわなければならない。
アムトラックの時速は在来線以下。新幹線に乗り慣れている私としては耐えがたいスピードだった。さらにユタ州で脱線事故があっため、安全点検のために、予定より3時間も遅れてしまったのだ。ということは、ロサンジェルスに着くのが夜中を過ぎてしまう。空港ならまだしもロサンジェルスのダウンタウンで一夜を明かすのは不安だ。
そこで、私はサンホゼで下車し、レンタカーで南カリフォルニアに戻った。車での旅は快適で、アムトラックよりも何時間も早く南カリフォルニアに戻ることができた。
私の周りには、ミネソタ州から36時間レンタカーを飛ばしたり、バージニア州からグレイハンドバスに57時間揺られたりして帰ってきた人たちがいる。大変ではあったが、無事に帰れただけでも感謝しないといけないのだろう。
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